<一>…「西芳寺」言わずと知れた、日本一有名な苔の庭
京都の西京区にある西芳寺は、別名「苔寺」と呼ばれ、スティーブ・ジョブズが愛した庭としても知られています。作庭家は夢窓国師。南北朝時代にできた枯山水庭園と池泉回遊式庭園の二つから成る庭は当時、白砂の庭でした。金閣寺や銀閣寺の庭の原型ともなった庭が、苔で覆われるようになったのは江戸末期になってからです。広大な敷地は百二十種を超える苔で覆われ、歩きながら鑑賞することができます。

西芳寺の黄金池。夢窓国師が目指した「極楽浄土」の庭は一面緑の世界になった。
<二>…「東福寺」今もなお新しい、重森三玲の代表作の庭
京都の東山区、東福寺の方丈と取り囲む四つの庭園では、昭和の名作庭家である重森三玲の庭園に出合うことができます。重森三玲の作庭家としてのデビュー作だった庭からは、その信条である「永遠のモダン」を感じ取ることができます。再利用した敷石と苔で市松模様を描いた「小市松の庭」は、一切の無駄をしてはならないという禅の教えのもと制約がある中で作られたもの。しなしながら、そうしたことを感じさせない素晴らしいデザインになっています。

小市松の庭(右)と北斗七星の庭(左)。ともに使われた石は廃材を再利用している。
<三>…「瑠璃光院」苔ともみじが輝く、瑠璃の庭
京都、八瀬にある瑠璃光院の「瑠璃の庭」は、苔ともみじがあわさった美しい庭。瑠璃とはラピスラズリのこと。苔の梅雨が朝陽で照らされ、瑠璃色に輝く様子はまるで「瑠璃の浄土」のように美しいことから、その名が付けられました。もみじの枝は上から下に流れるように、そして苔にぎりぎりにつかないように剪定されています。庭には小川も作られ、比叡山の伏流水が流れる様子も見事です。

こちらは「臥龍(がりょう)の庭」。紅葉の美しい時期にぜひ訪れて欲しい。
<四>…「慈恩禅寺」水の町、郡上八幡にある清流の庭
美しい苔の庭は、京都以外にもあります。岐阜県、郡上八幡は名水の町としても知られており、ここで出合えるのは自然の岩壁を利用した滝が流れる慈恩禅寺の池泉式庭園です。美しい庭の要素の一つには「背景」があるとされ、竹林や山など様々な背景を借景とした庭がありますが、この庭は美しい岩壁と自然の滝という珍しい背景が見所の苔庭です。書院から眺めていると時が経つのを忘れるかのようです。

書院前庭。水の音に耳を傾けながら、心ゆくまでゆっくりと眺めたい。
<五>…「貞観園」名主が守り継ぐ、絶景の庭
新潟県柏崎市を訪れたらぜひ立ち寄りたいのが、元は地元の名主の私庭だったという庭です。主屋「貞観園」に面した池泉式の庭は、私有地である背景の森林とつながり、どこまでも続く苔の海のように壮大な眺め。この庭を見るためだけにこの地を訪れても満足するほどです。「真」「行」「草」の三つの様式が表現された庭園に広がる苔は雪深いこの地において恵まれた気候もあって百種類を超え、すばらしい苔の庭園美を観賞することができます。

主屋「貞観園」からの眺め。苔の海原がどこまでも続くかのよう。
日本庭園の植栽において、脇役とも言える苔が主役となった庭はこの他にもさまざまあります。緑の美しい時期、あるいは紅葉の時期にぜひお出かけしてみてはいかがでしょうか。
庭のもつさまざまな顔をもっと知りたい。そんな人は当本の著者、烏賀陽百合さんの書籍『京都の庭とお菓子』もおすすめです。
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