星野リゾートをはじめ、さまざまな場所でホテルを数多く設計する佐々木達郎氏の設計思想。それは「その土地にある潜在的な魅力を引き出すこと」にあります。したがって建築は、その魅力を際立たせる黒子、絵画にたとえるなら〝額縁〞のような存在となります。
海に囲まれた豊かな自然と、16世紀以降、西洋と日本の文化が交わる歴史を歩んできた平戸の潜在的な魅力を抽出した「Kikka Hirado」も例外ではありません。海・山・庭が身近に感じられる配置、木造とRC造の組み合わせなどによる和洋折衷の設えは、平戸の「場所性」を顕在化させたものなのです。
さらに「Kikka Hirado」では、〝風景に参加する〞という理念が色濃く表現されています。それは客室やギャラリーに設けられた奥行きのある大きな出窓として。木材をあしらった〝額縁〞のなかに、人が入り込んだ瞬間、人は風景とともに切り取られ、単なる海景が風景画へと変わるのです。
「〝風景に参加する〞ことで、宿泊という非日常的な行為は、より美しい記憶として残るでしょう。こうした体験は、19世紀中頃にモネやルノワールなどの印象派と呼ばれる画家たちが、アトリエを出て、屋外で光や影の移ろいを感じながら、瞬間の風景の美しさを絵にしていたような感覚に近いかもしれませんね」(佐々木氏)
配置 海・山・庭との一体感を高める
RC2階建ての客室棟は、客室間に屋外空間(Void)を設けて、海と山・庭とのつながりを意識させる設えとした。一方、木造平屋の共用棟は三つまたの形状として、平戸瀬戸(海)や山、庭という3 つの自然的な要素との関係性を映し出しています。

共用棟のダイニング・ラウンジは、大開口越しに海とのつながりが強く感じられるよう、奥行きのある形状となっている。切妻の天井は黒く染色した羽目板で仕上げ、ダウンライトなどの電気設備も黒色とした。高級感を出すとともに、空間のボリュームを適度に抑え、視線を水平方向に誘導
断面 和洋折衷+“風景に参加する”出窓
RC造2階建て客室棟の断面計画。屋根を切妻形状とすることで、和洋折衷の概念を表現したほか、海側は人が座れる程度の奥行き(900㎜)を確保した出窓を設けた。“風景に参加する”という概念を最も強調する部位となっています。
NOTE 「Kikka Hirado」で採用された製品
「Kikka Hirado」では、デザイン性だけでなく、耐久性やメンテナンス性(日々の清掃)などを考慮して、数多くの既製品が採用されています。これは、星野リゾートをはじめ、さまざまな宿泊特化型ホテルの設計を手がけている佐々木氏の、宿泊者や運営者に対する細やかな配慮の現れといえるでしょう。
外部
屋根(ガルバリウム鋼板) 耐摩カラーSGL/日鉄鋼板
軒樋(ガルバリウム鋼板) Mi-CELL Design-B/セキノ興産
アルミサッシ ARM-S/三協アルミ
打放しコンクリート塗装 セラミクリート工法/エスケー化研
木材保護塗料 キシラデコール/大阪ガスケミカル
内部
天然木単板 不燃練り付けパネル 特注/チャネルオリジナル
磁器質タイル Mystone/マラッツィ・ジャパン
フローリング 複合フローリング ミャンマーチーク/IOC
★参考記事+動画:〝和紙畳〞が広げる日本建築の可能性
スイッチ・コンセント SO-STYLE/パナソニック エレクトリックワークス社
★参考書籍:『建築を整える。Archi Design by Panasonic』
照明:パナソニック エレクトリックワークス社、大光電機、DN ライティング、トキ・コーポレーション、ルーチ、モジュラージャパン、NEW LIGHT POTTERY、スペインSanta & Cole などの製品を採用
取材協力:佐々木達郎[ささき・たつろう]

1979年北海道生まれ。2002年千葉工業大学工業デザイン学科卒業。’04年千葉工業大学大学院修士課程修了。’04~’13年東環境・建築研究所。’13年佐々木達郎建築設計事務所設立。「場所と対話する建築」をテーマに掲げ、地域固有の豊かさを顕在化する空間づくりに取り組んでいる。「BEB5軽井沢 by 星野リゾート」で’20年度長野県建築文化賞/最優秀賞〈県知事賞〉など、「OMO5熊本by 星野リゾート」で2024グッドデザイン賞な
ど、受賞歴多数
施工=日本エコネット
建築写真=須藤和也/discovery go
人物入り写真=嶋井紀博