国・登録有形文化財第一号の宿「向瀧」
最初にご紹介するのは、福島県会津若松にある「向瀧(むかいたき)」。会津藩の湯治場だった建物を明治6年に引き継ぎ、旅館として開業。国の登録有形文化財の第1号物件となった、由緒正しき温泉宿です。
偏愛はな子 ※以下「偏」)国の登録記念物にもなっている美しい中庭では、7月中旬までホタルの舞を楽しむことができます。源泉かけ流しの温泉で心と体をときほぐしたあとは、夕涼みをしながらホタル観賞。傾斜地に寄り添うように建つ木造建築と、中庭に舞うホタルを眺めるひとときは、この時期ならではの贅沢です。
海と山に囲まれた洋館名建築「川奈ホテル」
次に紹介するのは、静岡県・伊東の「川奈ホテル」。名門ゴルフコースを有することでも知られます。ホテル建築に数々の名作を残す高橋貞太郎の設計で、建物随所にただならぬ見どころが。
偏)この季節限定の宿泊者専用野外プールは、創業当初より天城山(ホテルから約12km)から水を引き入れており、ひんやりとした心地よさが特徴。スペイン瓦と白漆喰が印象的なスパニッシュ様式の建物と、眼下に広がる太平洋の眺望が調和し、まるで南国リゾートを訪れたかのような開放感。建築美と自然を同時に味わえる、大人のリゾートステイにおすすめです。
マリリン・モンローが新婚旅行で訪れたことでも有名です。絶品のオムライスは、ルームサービスで2回も頼んだとか。
偏)3〜4日かけて作られる伝統のデミグラスソースと、焼印が美しいオムライスは、今も、グリルとサンパーラーで注文できるメニュー。ぜひ食べていただきたい伝統の一皿です。
大正ロマンに心ときめく老舗温泉「別所温泉 旅館花屋」
3軒目は、古くは枕草子にも登場する信州最古の温泉地、別所の宿。約6,500坪の敷地に、計約150坪の木造建築が点在、ほぼ全館が国の登録有形文化財に選定されている「別所温泉 旅館花屋」です。
偏)この宿の大きな魅力のひとつが、美しい渡り廊下です。夕暮れどき、水音が響く中を歩けば、ほのかに灯るランプの光や遠くから聞こえる虫の音が、非日常そのもの。湯上がりのさっぱりとしたあとは、広々とした館内を散策。文化財としての建築や意匠をじっくり味わえるのも、この宿ならではの魅力です。
大正ロマン漂うロビーも素敵です。
偏)夏のチェックイン時は梅ジュースのウェルカムドリンク。朝夕にはサイフォンコーヒーを提供。マルニ木工のソファで中庭や宮大工の技術が感じられるロビーをゆったり眺められます。
技術のすべてが再現不可能 “天平風呂”を有する「新井旅館」
創業約150年。客室棟をはじめ、浴場、橋など全15件もの文化財を有するのは、静岡県・修善寺にある「新井旅館」。各棟の建築美もさることながら、天平時代の大工が使用したと伝わる道具を用い完成された天平風呂は、かの芥川龍之介が「ここの湯は(温泉の絵)言ふ風になつてゐて、水族館みたいだ。これだけでも一見の価値あり」と残したほど。
偏)浴室内の太い柱は樹齢2千年を超えるヒノキ材、それを支える柱石は人夫20人がかりでも1日15センチしか動かせないほど巨大なものだそう。湯に浸かれば目線の先には、池を泳ぐ鯉の姿が。涼しげな趣を添えています。
棋聖戦会場にもなった茶亭をもつ「沼津倶楽部」

最後にご紹介するのは、将棋のタイトル戦・棋聖戦の会場にもなった茶亭を有する「沼津倶楽部」。静岡県・沼津の御用邸のほど近く、わずか8室の宿泊棟が静かに息づく名旅館です。
偏)宿泊棟の中央には水盤が設けられ、心地よい風が通り抜けます。朝夕の食事は、緑豊かな文化財の茶亭で。茶室の設計を活かしながら、ガラスを多用した開放的な建築は、夏の深い緑とともにこの季節ならではの景色を彩ります。
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