【いちまつのかべまど】小さな窓がかなえる狭小地の伸びやかなリビング ― 阿蘓俊博 ―

路地の突き当たりの狭小地に、小さな正方形の窓が市松模様に並んだ特徴的な住宅「いちまつのかべまど」があります。敷地は四方を隣家に囲まれており、普通ならば、プライバシーを守るために窓の設置を最小限にするか、窓を設けてもカーテンを閉めたままの暮らしになってしまいがちではないでしょうか。しかし、ここでは窓を市松模様に配置。プライバシーの確保と明るく伸びやかな生活の両立を実現しました。

建物外観

周辺環境を考慮し、上階に家族スペース(LDKとスタディスペース)を集約した。室内は明るい南に向かって勾配天井が高くなり、市松模様の開口部を介して空へとつながる

 

 

敷地は住宅街の路地突き当たりに位置し、四方を隣家に囲まれ、面積は21坪と文字どおり狭小でした。それでも建築主からは、外からのプライバシーは守り、かつ、明るく伸びやかに暮らしたいという要望がありました。21坪の敷地に建蔽率60%、容積率100%という厳しい条件も加わるなか、隣家の建ち方や空地の在り方、眺望の抜けなどを考察し、家族が集うLDKは2階の床すべてを使ったワンルームとしました。

ワンルームLDKは南へ広がる勾配天井。高くなった南側の壁に、小さな窓が市松模様に配されています。外からは室内の様子が分かりにくく、室内からは空が見えて明るさと伸びやかさを感じられる工夫です。小さな窓とはいえ、間口いっぱい・天井いっぱいに配置することで、大きな開口と同等の開放感を得ています。

 

南北断面図

南北断面図。屋根勾配をそのまま現した勾配天井により、実際の面積以上に広々と感じられる。2階の天井高は最も高いところで3,815㎜

 

市松状の開口は、「東側の2スパン分に2.7倍耐力壁となる鋼製ブレースを入れることで実現しました」(阿蘓氏)。

 

東西断面図

 

また、LDK以外の諸室は1階にまとめました。洗面を中心にトイレ、浴室、ウォークスルークロゼット、個室を回遊動線上に配し、機能的な動線となっています。1階を機能性に特化した空間とすることで、対照的に、2階のLDKワンルームがより伸びやかな空間に感じられます。

 

間取り 四方に隣家が迫る敷地に“閉”と“開”の要素を共存させる

2階平面図

2階平面図。2階全体(36.76㎡)をワンルームとし、家族が集い、のびのび生活できる空間とした。西側にテラスを設けて隣家との見合いに配慮するとともに、小上がりと床レベル・仕上げを揃えて限られた床面積を拡張している

1階平面図

1階平面図。動線の要となる玄関、洗面台、階段を中央に配し、無駄のない効率的な動線とした

1階の個室は寝るためのスペースと割り切って最小限とし、2階の階段の左右に家族3人分のスタディスペースを設けた。1段上がった床と窓際の小上り下は収納になっている

階段

階段はコンパクトな廻り階段。腰壁とすることで1階・2階のお互いの気配が伝わる。また、2階のワンルームの一体感を損ねることなく、左右のスタディスペースの独立性も確保している