ZEB水準の省エネと道産材による木質化を実現
北海道の義務教育段階の学校で初めてZEBReady認証[※1]を取得した「ラベンダーの杜中富良野町立なかふらの学園」は、一次エネルギー消費量を基準値より60%以上も削減。BEI(Building Energy Index)は0・75を達成しています。建物の外皮性能向上に加え、省エネ性に優れた設備機器の採用と、太陽光発電や地中熱利用によって快適な教育環境となっています。
※1 ZEBの実現を目指す先進的建築物として、外皮の高断熱化および高効率な省エネ設備を備えた建築物
こうした建築のポテンシャルを最大限に引き出しているのが「中央監視システム」(内田洋行)です。設備を一元管理しながら、スマートフォンで遠隔操作もできます。

エネルギー使用状況などを含めた建物の利用状況はスマートフォンでも操作が可能な「中央監視システム」によって管理され[上]、その状況はリアルタイムでタブレットやサイネージに表示することが可能。この画面では、太陽光発電(壁面)と電力使用量(空調や照明など)が示されており、子どもたちが省エネ・創エネに関して体験学習できるツールにもなっている[下]
「教職員の負担軽減のほか、温熱環境やエネルギーの使用状況をリアルタイムでタブレットやサイネージ上で可視化できるので、教育効果も期待できます。さらに、環境省の補助金を利用しているため年に1回、事業報告書の提出が義務付けられているのですが、『中央監視システム』を用いれば報告書作成の手間も省けます」(中富良野町 企画課 参事 建築景観係長 髙橋純氏)。
一方、北海道産材を用いて木質化された設えも建築の大きな特徴。「木材の心地よさや地域循環型経済の大切さについて、自発的にかつ肌感覚で学んでもらいたいです」(中富良野町教育委員会 教育課課長補佐 三谷和生氏)[※2]。

カラマツJAS集成材を梁として格子状に組み、21mスパンの大空間としたプレイコート。中央部には梁間に天窓を組み込んでおり、視線は自然と上方に誘わ れ、温かみのある木に包まれている感覚が得られる。ボールがぶつかっても窓を保護する防球ネットは、教職員のスマートフォンで開閉を制御できる
「子どもたちが主体的に、建物の〝使い方〞や〝過ごし方〞を見つけてくれたら、とてもうれしいですね」(髙橋氏)。「なかふらの学園」の実り豊かな将来に期待したい。
※2 図書館には町立図書館と共通のシステムを導入し、蔵書の相互利用が可能に。ICタグでセルフ貸出や蔵書点検の効率化も図る。子どもたちがふと気になった一冊に、より気軽に手を伸ばせる環境を実現している

2階平面図。❶ 建物は外壁の表面積が小さくなるように、正方形に近い形として断熱性能を高めている ➋ 断熱の仕様は以下のとおり。屋根は硬質ウレタンフォーム断熱材2種1号(150㎜厚)、外壁はフェノールフォーム断熱材1種2号(80厚)、 基礎・床は押出法ポリスチレンフォーム断熱材3種b(100㎜厚)。開口部にLow-E ペアガラスのアルミ樹脂複合サッシを採用 ❸ 教室は一般的な学校と同じく8mスパンとする一方、“ホームベース”と呼ばれる廊下も8mスパンとしており、吹抜けを囲むように回遊できる。廊下ではさまざまなアクティビティが可能であり、引違い戸を開放すれば、教室と一体化した広い空間として使える ❹ 教室の奥はインナーテラスとなっており、自由に出入りできる。休み時間には子どもたちの居場所になる ➎ 不登校支援の1つとして学校内に教育支援センターを設立

建物は3階建てRC造(ラーメン構造)+一部木造。延べ面積は9,579.2㎡。中富良野町は積雪 量も多く(多雪地域・垂直積雪量は130cm)、冬期の太陽の南中高度も低い(冬至で約23.1°)。 そのため、太陽光発電パネルは屋根ではなく、壁面に設置し、発電効率の低下を防いでいる。断熱方式は外断熱であり、熱容量の大きいコンクリートの蓄熱効果も期待できる

教育支援センターは、利用する子どもたちが安心して過ごせるよう、動線設計を工夫。また、視線が交差するような椅子の配置は避けた。さらに、リラックスして過ごせる空間とするため畳敷き(いぐさ)のベンチや個室ブースを設けた
取材協力
NOTE 「なかふらの学園」で採用された製品[内田洋行関連]
中央監視システム:中央監視システム(Smart Building Integration)
UHF帯IC機器:IT図書館システム「ULiUS(ユリウス)」
蔵書点検 ハンディターミナル U-DWSP1
閲覧返却ブックトラック
蔵書点検 ソフトウェア
据置型リーダライタ・アンテナ U-MRU102US
椅子:MARUNI COLLECTION T&O T1チェア
畳ベンチ(いぐさ):8-507-0001