換気の目的は、汚染空気を新鮮なものにする|換気-空気の道をデザインする①

家にいる時間が圧倒的に増えることによって、俄然注目を浴びるようになった“換気”。設備設計者として第一線で活躍し、多くの著書を執筆している山田浩幸氏が、家における正しい換気の方法について解説します。

はじめに

人が家のなかで快適で安全に過ごすために、換気は重要な要素です。最近ではリモートワークの普及が進み、自宅で過ごす時間が確実に増えました。適切な換気はウイルス感染症対策にも有効であるといわれています。

では、換気は具体的にどのように行えばよいのでしょうか? 本稿では、「換気の目的とメカニズム」「換気の方法(自然換気と機械換気)」「夏の換気・冬の換気」について、設備設計者として数多くの建物にかかわり、『世界で一番やさしい建築設備』『エアコンのいらない家』『建築設備パーフェクトマニュアル』『ストーリーで面白いほど頭に入る建築設備』(いずれもエクスナレッジ刊)の著者としておなじみの 山田浩幸氏(yamada machinery office[ymo])に、それぞれのポイントを解説していただきました。

 

1 換気の目的・基準

換気は、自然換気と機械換気という2種類の方法に大別されます。自然換気は窓を開けて自然の通風を促すことで、排気と給気を同時に行うものです。機械換気に比べて大きな換気量を確保できる点が大きなメリットです。一方の機械換気は、換気扇を利用して換気を機械的に制御するものです。

換気について、リビングや寝室をはじめとする居室の換気には、建築基準法が規定する、2つの基準があります。1つ目はCO2濃度基準によって定められている換気。これは、成人男子の安静時に発生する1人当たりのCO2排出量から算出された換気量で、1人に対して1時間当たり20㎥以上の換気量を確保する必要があるとされています[建築基準法施行令20条の2]。4人家族のリビング・ダイニングでは、80㎥/h以上の換気を行うことが求められます。

ただし、この基準については、床面積の1/20以上の面積がある換気に有効な開口部を設けることで、機械的な換気設備の設置は必要がない、とされています[建築基準法28条2項]。

 

『エアコンのいらない家』で換気について説明されているページ。昔の家は隙間だらけで気が付かないうちに換気がされていたものの、現在では気密性の向上によって、換気を意識的に行う必要がある、という旨を説明している

    
 
2つ目は、建材や家具などから発生し人体に悪影響をもたらすホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物除去を目的とする24時間機械換気。新たな換気基準としてシックハウス法が平成15年(2003年)に施行されました。

ご存じのように、シックハウスが問題視されるようになった背景には、建築技術の発展に伴う気密性の向上があります。昔のように隙間の多い建物は、建材などから有害な物質が揮発していても、いわゆる〝隙間風〞による自然換気で、汚染空気と新鮮空気が自然に入れ替わっていました。ところが、最近の住宅では気密性の向上があだとなり、その効果が見込めなくなってしまったのです。

 

1960年代以前に建てられた典型的な木造住宅。気密性が低く、自然に換気が行われていた。山田氏は現在、空調機器になるべく依存せず、自然の仕組みを最大限活用して快適な住環境を提供する「エアコンのいらない家」をプロデュースしているが、現在は、古民家のポテンシャルを最大化する「エアコンのいらない古民家リノベーション」にも力を入れている。そのノウハウについての詳しい解説はこちらから。本事例は、古民家ならではの大きな窓と新設した天窓によって、十分な通風(換気)を確保した「川越の古民家」(建築設計:ケミカルデザイン一級建築士事務所/写真:小島純司)

また、地域によっては、住宅の密集化などにより窓を開けて自然換気を行うことが生活上難しくなってきたことも、機械換気を義務付ける流れに拍車をかけました。現代の住宅では、換気のすべてを自然換気に期待するのは難しいというのが現実です。法律上も実用上も、住宅の換気には機械換気を計画的に導入することが必須になっているといえます。

シックハウス法では、1時間に室容積の0.5回以上の換気(2時間で部屋の空気をまるごと入れ替える)を24時間行わなければなりません[※]。したがって、現代の住宅の居室では、このシックハウス法に基づいて、基準を満たすように機械的な換気が計画されているのです。しかし、この換気だけではウイルス対策については十分であるとはいえないでしょう。

※  換気回数とは、換気量(㎥/h)を居室の容積(㎥)で割った値で、1時間に居室全体の空気が外気と入れ替わる回数を表す

 

山田浩幸氏は、建築設備家&環境エンジニア。1963年新潟県生まれ。東京読売理工専門学校 建築設備学科卒業後、建築設備の設計事務所である日本設備計画、郷設計研究所を経て、2002年にyamada machinery office(ymo)設立。主に戸建住宅、集合住宅・保育園等の設備設計を中心に行う。 また、執筆書籍「エアコンのいらない家」の読者からの住宅設計の依頼を受けて、設備事務所でありながら、住宅建築設計を数多く手がける

 

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