適度な暗さを演出する照明
『庭と住まいの照明手帖』は、「建築知識」の人気連載「住まいの照明設計塾」から生まれた書籍。2019年9月に発売されて以降、売れ行きは変わらず好調で、読者からも高い評価を得ています。具体的には、
「照明効果の基本を学ぶのにもってこいの本…」「ダウンライトひとつとっても種類や配置で、とても印象が違ってくることがわかり、学ぶ点が多くありました…」「外構におけるライティングの重要性を改めて感じさせられました…」
というように、明確な意図をもった照明計画の考え方や、本書の特徴でもある外構を基軸とした具体的な設計の手法が丁寧に解説されていることが読み取れます。
著者である”庭の樹太郎”こと、花井架津彦氏は、本書の要諦を次のようにまとめています。
「本書は”現場から生まれたもの”です。机上論でなく、照明デザイナーが実際にプランして成功した事例をご紹介して、住まいを考えるうえで比較的優先順位の低い、照明、外構、造園の重要性を伝えています。照明デザインの本といえば、外構や造園にまで踏み込んだ本はあまり前例がないと思いますし、造園系のプラン本では、スケッチはあっても実例写真を多用したものは珍しいと思います」
加えて、こうした誌面からは、照明設計の良し悪しは、ただ単に明るさという視点では判断できない、という花井氏の哲学を読み取ることができるでしょう。
「一般的には、明るさは善、暗さは悪が常識のように思われていますが、バーのカウンターから夜景を楽しむシーンをイメージすると理解しやすいように、場合によっては適度な暗さも必要。本書を通して、単なる照明設計のノウハウを取得するのではなく、その背後に潜む理念を感じ取っていただければ幸いです」。
こうした影によって生み出される美しさは、文豪‧谷崎潤一郎が『陰翳礼賛』で記した、古から日本に伝わる普遍的な美意識の表象。
『庭と住まいの照明手帖』が表現するものは、こうした光と影に対する日本ならではの感性を、現代の生活に照らし合わせて再解釈し、照明設計の手法として具体化したもの。このような観点において、本書の価値はまさに普遍的。長きに渡って、読者から高い支持を得ている根拠にもなっていると考えられます。
『庭と住まいの照明手帖』
定価 2,000円+税
著者名 花井 架津彦
ページ数 136
著者情報
花井架津彦[はない・かづひこ]
1981年生まれ。2003年大光電機入社、照明設計集団TACT(タクト)に所属。住宅照明を専門として、ハウスメーカー‧建築家向けを中心に数々の照明計画を手がける。『荻野寿也の「美しい住まいの緑」85のレシピ』(エクスナレッジ)を執筆した荻野寿也氏の造園演出にも数多く携わる。"建築‧造園‧照明の融合" をテーマに全国各地で講演活動を行っている