大人気背景イラストレーター吉田誠治が選ぶ!本棚に置いておきたい創作資料本10選

絵本の舞台のような物語を感じる背景イラストが人気の吉田誠治氏。今回は、吉田さんがオススメする「本棚に置いておくと創作に役立つ」エクスナレッジの本を10冊ご紹介!創作のインスピレーションになる本、実践的なデザインの参考になる本、初学者でも建築が楽しめる本など色々な本を選んでいただきました。ぜひ参考にしてみてくださいね。

エクスナレッジは建築以外も面白い

エクスナレッジの書籍は「建築知識」とその関連書籍のせいで専門書のような本が多い印象もありますが、実際は建築と全然関係ない本も出していますし、建築に詳しくない人でも楽しめる本も沢山あります。また、人気シリーズの「解剖図鑑」にも建築と無関係のものが多数あり、しかもどれもよくまとまっていて面白いので、僕自身、新しいものが出るたびによく購入しています。

この記事では、そんなエクスナレッジの書籍の中から、特にイラストレーターや漫画家など、建築にそれほど詳しくなくて、かつ主に絵を描く職業の人にお勧めしたい書籍をご紹介します。

今回吉田さんが選んだ本はこちら!

01.『生きものがつくる美しい家』
02.『世界の愛らしい子ども民族衣装』
03.『ケルトの解剖図鑑』
04.『絵でわかる建物の歴史』
05.『世界の夢の動物園』
06.『ドイツの家と町並み図鑑』
07.『西洋の名建築解剖図鑑』
08.『台湾レトロ建築案内』
09.『世界の美しい本屋さん』
10.『日本の最も美しい図書館 改訂版』

人間にない発想が参考になる
『生きものがつくる美しい家』

ファンタジーやSFなどの世界を描くとき、人間以外の知的生命体や空想生物がどういう家や巣を作るのか?というのは非常に難しいテーマです。そんなとき役立つのがこの本で、鳥の巣に始まり、リス、ヤマネ、アナグマ、チンパンジー、更にはハチやクモ、魚など、多種多様な生物の巣が詳細なイラストで紹介されています。巣の作り方の解説も勉強になりますが、水辺の草を柱にして作るツリーハウスのような巣や、植物の葉を蜘蛛の糸で縫い付けてつくる巣など、想像もしていなかったような発想を楽しむことができます。

動物が作る巣は、原始的であるからこその発想や合理性が人間の想像を超えた形を生み出していて、特に空想世界を描く必要のある絵描きにとっては、その意外なアプローチがとても参考になりそうです。なおこの本自体は2023年刊と比較的新しい本ですが、僕自身はこの本の元になった「生きものたちのつくる巣109」も持っていて、様々な作品で参考にさせていただいていました。『生きものがつくる美しい家』は、更に加筆修正した121の巣が掲載されているので、ますますお勧めです。


『生きものがつくる美しい家』
定価 1,800円+税
著者名 鈴木 まもる
ページ数 176
判型 A5判

キャラデザインの参考だけでなく背景解説も
『世界の愛らしい子ども民族衣装』

民族衣装を紹介した書籍の中でも、これは子どもの民族衣装に特化したフルカラーの写真集で、何よりもその着眼点が素晴らしいです。民族衣装でも子どものものとなると極端に資料が少なく、書籍でもネット検索でもなかなか見つからないのは、一度調べたことのある方なら同意していただけると思います。それが88ヵ国・全131点にわたって網羅的に掲載されているので、パラパラとめくるだけで楽しいですし、もちろんキャラクターデザインなどのリファレンスにはもってこいです。

さり気なく凄いのがそれぞれの衣装に添えられた解説文で、その衣装がどんな民族のものでどんな時に着るのか、それが彼らにとってどんな意味を持つのかといった文化的歴史的な視点からしっかりと解説されていて、衣装を通じてその民族について知ることができる興味深い内容になっています。単にビジュアルに惹かれて軽い気持ちで買った写真集ですが、想像以上に勉強になりました。多くの方に読んでいただきたい一冊です。


『世界の愛らしい子ども民族衣装』
定価 1,800円+税
著者名 国際服飾学会 (監修)
ページ数 160
判型 B5判

かゆいところに手が届く!
『ケルトの解剖図鑑』

ここ数年様々なメディアで注目度が高まっているケルト文化について、最新の研究を元に解説した書籍。英雄クー・フリンや名剣ガラドボルグ、ハロウィンの起源であるサウィン祭、ドルイド、ハイ・クロス(ケルト式十字架)、常若の国アヴァロン、そしてアーサー王伝説など、実はケルトが由来というモチーフは多いのですが、では実際ケルトとは何なのかについては曖昧なイメージで語られがちです。そんなケルトについて、どこまでが歴史的な事実なのか、文化的にはどう捉えられてきたのかなど、あくまで事実ベースでありつつその周辺の影響についても解説されていて、ケルトについて知るのには最適な一冊になっています。

僕自身が子どもの頃から触れてきた作品の中にもケルトの要素をベースにしたものは多数あり、自分でも仕事の際になんとなく参照したりしてきましたが、正確な資料が少ないため毎回資料を集めるのに苦労していたので、こうして専門家に分かりやすくまとめていただけるのは有り難いです。また、今まで興味がなかった方も、これを読むとヨーロッパにある文化のうち意外と広い範囲にケルトの影響が広がっていることが分かって面白いのではないでしょうか。


『ケルトの解剖図鑑』
定価 1,680円+税
著者名 原 聖
ページ数 160
判型 A5判

子どもから大人まで建築が学べる絵本
『絵でわかる 建物の歴史』

世界の様々な建築を、子どもにも分かりやすいよう豊富なイラストと解説で紹介した絵本。絵本とはいえ内容はかなり本格的で、パルテノン神殿のページでは横架材と荷重についての解説があったり、産業革命のページではリベットの打ち方を詳しく解説したりしています。また、近現代のページではミース=ファン=デア=ローエやザハ・ハディドなど様々な建築家たちとその思想について紹介し、未来の建築の課題として持続可能性や宇宙への進出といった最新の知見についても押さえています。他にも日本家屋やヴァナキュラー建築[※]などについてもページを割いていて、これ一冊あれば建築に関して最初に踏まえておいてほしい知識は一通り学べると言えるほどの内容です。

実は建築に興味がある子どもというのは予想以上に居るようで、僕の著書の感想でも「子どもに読ませる建築系の絵本が少ない」という話をよく聞きますが、そういう方にはこちらの本をお勧めしています。ただ、それ以上にこの本は建築初学者にとって必要な知識がコンパクトにまとまっていて読みやすいので、建築について学びたいけど専門書は難しすぎる、という方にもおあつらえ向きの一冊だと思います。


『絵でわかる 建物の歴史』
定価 1,600円+税
著者名 エドゥアルド・アルタルリバ (著), ベルタ・バルディ・イ・ミラ (著), 中島 智章 (監修)
ページ数 48
判型 A4変

独特のデザインが学べる珍しい本
『世界の夢の動物園』

あまり単独では注目されてこなかった動物園建築について、A4版、540ページというとんでもないボリュームでまとめた一冊。動物園の写真集は多く出版されていますが、動物園の建築自体に注目した本というのは非常に珍しいです。しかも合計77の動物園について平面図なども交えつつ系統立ててまとめられているので、動物園という特性上、基本的にオンリーワンにならざるを得ない自由な発想から生まれるデザインは、創作においても大変参考になります。

僕自身、動物園は好きなのですが、そういえば動物園を建築の視点で見たことはあまりありませんでした。こうしてまとめられると、確かに動物園の建築というものは空想世界にあってもおかしくないような独特なものが多いように思いました。生体を展示するため開放的なもの多く、植栽をふんだんに取り入れているところも、ファンタジーやSFの建築デザインにそのまま流用できそうです。動物園建築を体系的にまとめた本として動物園ファンにもお勧めですが、絵描き向けの資料としても、実はかなり有用な一冊です。


『世界の夢の動物園』
定価 3,800円+税
著者名 ナターシャ・ムーザー
ページ数 520
判型 A4判

ロマンあふれる建築デザインに注目!
『ドイツの家と町並み図鑑』

今でも木組みの家や茅葺屋根など中世の面影を残すドイツの町並みは、ヨーロッパでも有数の観光スポットです。また、実際にドイツを訪れた際にも驚いたのですが、近代以降の建築も素朴な可愛らしさがあるので、個人的にはヨーロッパの中でも一番好きな町並みかもしれません。この本はそういったドイツならではのロマン溢れる建築や町並みについて、豊富な写真で解説しています。

本文中でも言及されていますが、ドイツ建築の可愛らしさの一端はドアや窓のカラフルさや、装飾の多様さにあると思います。鎧戸がおもちゃみたいな原色の緑だったり、パステルカラーの窓枠だったり、スレートの組み方が凝っていたりと、他の地域ではあまり見ない独特な装飾があちこちにあります。一方で、古い木組みの外壁の家はいかにもメルヘンの本場といった趣で、本書ではそれらの名称や役割などについても細かく解説されています。特に近代以降のドイツの町並みの可愛らしさに注目した写真集は他にあまり知らないので、そういった魅力を伝える本として強くお勧めしておきたいです。

『ドイツの家と町並み図鑑』
定価 1,800円+税
著者名 久保田 由希、チカ・キーツマン
ページ数 184
判型 A5判

西洋建築を知りたいならまずはこの一冊
『西洋の名建築 解剖図鑑』

西洋建築について一冊にまとまってる本がほしいという人は、まずはこれを買ってください。それぐらいこの本は西洋建築についての情報が網羅されていて、初学者向けの教科書としては理想的な仕上がりです。4000年の西洋建築史の中から70の名建築を厳選して徹底的に解説しているほか、時代ごとにどのような傾向があるのか、どこに技術革新があったのか、政治的社会的背景なども踏まえつつ詳細に解説しています。

これだけ多くの名建築について解説があるので一つ一つの内容が薄まっているかというとそんなこともなく、例えばフィレンツェの有名な大聖堂の項ではドーム部分のスパイラル状のレンガについて解説したり、サン・ピエトロ大聖堂の項では現状とは別に検討された2つの案も平面図とともに紹介したりと、掲載されている情報は流石の密度です。図解についても、解説する内容に合わせて断面図にしたりパース図にしたりと分かりやすくなるよう工夫されていて、しかもどの図解も非常に詳細で正確なので信頼できます。西洋建築史について何も知らない人でも、これを読めばかなり理解が深まる内容どころか、読めば読むほど建築の魅力に引き込まれる一冊です。

『西洋の名建築 解剖図鑑』
定価 1,800円+税
著者名 川向正人 (監修), 海老澤模奈人 (監修), 加藤耕一 (監修)
ページ数 176
判型 A5判

ノスタルジックな魅力を具体的に楽しめる
『台湾レトロ建築案内』

台湾各地に残るノスタルジックな建築を、豊富な写真とともに紹介した一冊。台湾は古い建築が今も多く活用されている印象がありましたが、この本ではそういった建築の外観と内観を詳しく見せるだけでなく、台湾建築を楽しむポイントとして鉄窓花(飾り格子)やセラミックタイルなどを実例とともに紹介していて、台湾建築の魅力について深く知ることができます。建築紹介の項ではカフェの看板メニューや地域の名産品などについても紹介されていて、ついつい台湾に行きたくなってしまいました。

24軒が掲載されていて、解説文を読むとその建物が辿ってきた歴史についても知ることができます。元は病院だった建物が複合商業施設になっていたり、鉄道局の倉庫を再利用してブックカフェにしていたりと、その履歴を辿ることで建物にも物語が感じられるのが面白いと感じました。同著者による続刊『台湾名建築めぐり』では離島の名建築を紹介していて、そちらもお勧めです。


『台湾レトロ建築案内』
定価 1,600円+税
著者名 老屋顔
ページ数 192
判型 A5判

本のある空間の生きたデザインが参考になる
『世界の美しい本屋さん』

人気シリーズ『世界の夢の本屋さん』(3巻まで刊行済み)から、選りすぐりの書店を集めた世界の書店ガイド決定版。まるで魔法世界のようなポルトガルのレロ書店や、駅舎を書店に改装したイギリスのバーター・ブックスなど、個性豊かで美しい20の書店がA5サイズの本にまとめられているので手に取りやすく、資料として本棚に置いておくと本のある空間を描く際に大変インスピレーションになります。

僕自身、両親が図書館員で家には1万冊以上の本が積まれていたので、本のある空間には並々ならぬ興味がありますが、この本にはとても触発されました。特に本書で紹介されている海外の書店の場合、ゴシック教会をはじめ日本にはほとんど存在しない建築が舞台になるだけでなく、本棚の造りや本の並べ方にも文化の違いが感じられるので、自分がいかに固定観念に縛られているのかを実感できます。歴史建築と違って、今まさに商店として日常的に使われている、生きたデザインであるというところも重要なポイントです。本好きには単純に眺めているだけでも楽しい写真集ですが、背景屋としては、新しくかつ地に足のついたデザインを学べる貴重な書籍です。


『世界の美しい本屋さん』
定価 1,600円+税
著者名 清水 玲奈
ページ数 128
判型 A5判

日本にもこんなに!コンセプトの違いが空間にあらわれる
『日本の最も美しい図書館 改訂版』

本好きとしてもう一冊、日本中から美しい図書館の写真ばかりを集めた決定版の写真集。風格のある歴史的なものからモダンなものまで、41館を多数の写真で紹介しています。表紙(京都府立植物園きのこ文庫)で一目惚れしたのですが、他に掲載されている図書館もどれも個性的で、こんな独特なデザインの図書館が日本にもあるのかと驚かされました。書棚の配置だけでなく、読書スペースとの関係性、採光と照明のバランスなど、図書館ごとに明確にコンセプトが違うのが面白く、図書館に限らず広く建築を描くときの参考になります。

気軽に中を見ることのできない大学図書館についても、いくつか取り上げられていたので嬉しくなりました。図書館建築は公共性が高いからか空間に余裕を持ったものが多く、商業施設とは違ったゆとりのある空間づくりをしているので、そのあたりも建物を描く際の資料として有用です。海外と違ってこちらはある程度気軽に訪れることができるので、この本をきっかけにあちこちの図書館を訪れてみるのも良さそうです。


『日本の最も美しい図書館 改訂版』
定価 1,800円+税
著者名 立野井 一恵
ページ数 156
判型 B5変

選んでくれたのはこの方


吉田誠治(よしだ・せいじ)
イラストレーター。
PCゲームメーカー勤務を経て、2003年よりフリーの背景グラフィッカーとして活動。
多数のゲーム制作に参加するほか、近年は書籍の装画なども手掛ける。京都芸術大学講師、京都精華大学講師。
著書に『TIPS!』エムディエヌコーポレーション/『ものがたりの家』パイ インターナショナル/『吉田誠治作品集』玄光社 がある。
「建築知識」2021年1月号~12月号 表紙イラストを担当。

吉田誠治氏描き下ろしイラスト&メイキング公開中!

▼作品紹介/祖母と孫の中古電気屋

吉田誠治氏のオリジナル描き下ろし作品を公開!【PSDデータ配布は終了しました】

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