世界初の「AIがデザインした建築」は、20年前の日本に建てられた駅舎だった

「偶然見かけて気になり、その後もずっと記憶に残り続ける」そんな不思議な建築を紹介する本企画。今回は「日本の不思議な駅舎」を4件ご紹介。日本中どこにでもある身近な存在ですが、街のアイデンティティを担う建築だけに、その姿には建築家の創意がいかんなく発揮されています。
文:加藤純 写真:傍島利浩

流線型の波がうねるダイナミックな壁面

2005年に開業した、東京・秋葉原と筑波研究学園都市を結ぶ、つくばエクスプレス。
この時に新設された20の駅の一つ「柏の葉キャンパス駅」が最初の不思議建築です。
設計を手がけた渡辺誠氏は、すでに都営大江戸線の「飯田橋駅」などを完成させていました。
駅の西側を覆う大きな白い壁が特徴的で、彫りの深い凹凸のラインが波打つようにうねっています。
少し離れた場所から見ると、光を受けて陰影を浮かび上がらせる壁には、かなりの迫力があります。
壁のところどころにランダムに開けられた横長の孔が、ダイナミックな外観の印象がさらに増幅させているように感じました。

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流線形の細長いラインが水平方向に伸びる

 

AIで生成された世界初の建築

なんと駅舎の壁を覆う流線形のパネルは、AIのアルゴリズムによってデザインされたものです。
しかもAIで生成された建築としては、世界初とのこと。
生成AIなどが普及した今だからこそ理解できる手法ですが、20年以上も前にこの発想を駅舎という巨大な建築で実現していたことに、驚きを禁じ得ません。

駅舎を設計した渡辺氏は、コンピュータが生成した形状を建築に取り入れる「アルゴリズム・アーキテクチャー」の先駆けとして知られる建築家である

 

先進的なつくりで街の顔に

うねる外壁は、土木で使われる鉄筋コンクリート造の架構を、GRC(ガラス繊維強化セメント)の外壁パネルで包み込むという新しい工法で建てられています。
渡辺氏は西面を「乱流」、東面を「層流」と設定し、鉄筋コンクリート造の架構から自立した2枚のパネルで、東西の壁面を挟むデザインを採用しました。
そのため「ゆらぎ・ながれ」をテーマにした西の壁面とは対照的に、東の壁面はフラットな押出成形セメント板ののっぺりとした表情をしています。

「柏の葉キャンパス駅」は、周辺の商業施設と一体で開発された駅舎です。
新しい街のシンボルとなることが期待されていたのでしょう。
やや均質的さを感じさせる街のなかで、独特のゆらぎを静かに醸し続けています。

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AIプログラムに設計者の評価を学習させながら形状を生み出すというプロセスを経て、「これがいい」というパターンが生み出されたという

 

“新しいレンガ造りの駅舎

「上州富岡駅」は、世界遺産「富岡製糸場」の玄関口として計画された駅舎です。
宙に浮いたような白い大屋根が街の門となると同時に、人々の交流を生む縁側のような半外部空間をつくり出しています。
富岡製糸場を思わせるレンガの壁は「鉄骨(てっこつ)煉瓦積造(れんがせきぞう)」という、新たに考案された構造・工法によるものだそうです。

白い1枚板の大屋根が空中に浮かんでいるような外観

薄茶色のレンガが歩道や駅前広場に連続し、街と連続した景観をつくっている

開放的で街に溶け込むような半外部空間。白い天井とレンガの床・壁のコントラストが美しい

 

わかりやすさは正義!? SL風駅舎

続いて紹介するのは、蒸気機関車(SL)の形を模した存在感のある駅舎です。
この真岡(もおか)駅がある栃木県真岡市”は、蒸気機関車の走る街として知られ、同駅を通る真岡鐵道真岡線では、今でもSLが運行しています。
情報センターや展望デッキなどが併設された複合施設となっていて、そばに建てられた博物館(SLキューロク館)も同じような機関車の外観とされました。

機関車を模した真岡駅

駅舎の出入り口は、車輪のようになっている

側線群、SL格納庫、転車台、展示車に沿う歩道が開放されている。右手前の双子のような博物館は2013年に完成した

 

時計塔とドーム屋根のコンボ駅舎

最後に紹介するのは「印旛日本医大駅」です。
鋭く尖った時計塔と、段状に盛り上がったボリュームをもつ異様なシルエットの駅舎です。
外装に自然石のスレートなどが使われた重厚な外観は、”森の中の駅舎”がイメージされ、千葉ニュータウンの堂々たるシンボルとなっています。

用途不明の外観が見る者の想像力を掻き立てる

線路側からの見え方も迫力満点

「バベルの塔」を彷彿とさせるドームの内部空間は、幾何学が折り重なるような天井のトップライトから自然光が降り注ぐ。塔上部は展望台だが普段は入れない

 

今回紹介した不思議な駅舎たち

「柏の葉キャンパス駅」
設計:渡辺誠/アーキテクツオフィス、鉄道建設・運輸施設整備支援機構
所在地:千葉県柏市
竣工:2004

 

「上州富岡駅」
設計:武井誠+鍋島千恵 / TNA
所在地:群馬県富岡市
竣工:2014

 

「真岡駅」
設計:ラウム計画設計研究所
所在地:栃木県真岡市
竣工:1997

 

「印旛日本医大駅」
設計:交建設計
所在地:千葉県印西市
竣工:1999

 

『日本の不思議な名建築111』
著者:加藤純 / 写真:傍島利浩
定価:1,800円+税
ページ数:176
判型:B5(変形)

 

著者プロフィール

加藤純(かとう・じゅん)
1974年大分県生まれ・東京育ち。編集者・メディアプランナー・ライター。‘97年東京理科 大学工学部第一部建築学科卒業、’99年同工学研究科建築学専攻修士課程修了。株式会社建築知識(現・エクスナレッジ)「建築知識」編集部を経て独立。出版物・WEB等の企 画・編集や執筆を行う。2020WEBメディア「TECTURE MAG」の立ち上げに参画、編集長。’23年、空間にまつわるコンテンツの企画制作会社 Kazana Inc. 設立。

傍島利浩(そばじま・としひろ)
1965年大阪府生まれ。1991年より藤塚光政に師事。1996年よりフリーランス。建築、インテリア、プロダクト、アート、人物を中心とした雑誌、広告、竣工写真などを手がける。 1999年、写真展「都市放浪PARTⅠ」(セラトレーディング)開催。2000年、写真展「都市 放浪PARTⅡ」(セラトレーディング)開催。2006年、株式会社プンクトゥム設立。2016年、 iPhone写真展「iSnap4s6」(ANOTHER FUNCTION)開催。共著に「奇跡の住宅 旧 渡辺甚吉邸と室内装飾」(LIXIL出版)、「東京の名駅舎」(草思社)、「東京名建築さんぽ」 (エクスナレッジ)などがある。