忍術伝書から読み解く、忍者の眠りへのこだわり

皆さんは、どんな状況でも眠れる自信はありますか?
もしかしたら「環境が少しでも変わるとなかなか寝られない」という人もいるかもしれません。
しかし、いざという時、たとえば災害時などでは、避難所で寝泊まりする日が続く可能性があります。
そう考えると、いつでもどこでも眠れる能力も案外バカにできないものです。
ところで、過酷な環境で難しい任務をこなす忍者も睡眠を探求していたようです……。

こんな夜に、忍者はやって来る

忍者の教えには、睡眠に関するものが多くあります。
特に、敵がよく寝ている時間帯を見計らって忍び込むための方法は重要視されてきました。
たとえば「祝言明けの夜」(結婚式などの酒宴後の隙を狙います)、「病の後の夜」(看病明けで家の人が疲れている隙を狙います)、「風雨の夜」(雨や風の音でこちらの物音が聞こえない夜を狙います)は、忍者が忍び込むのにちょうどよいタイミングです。

 

眠りが「深い人」と「浅い人」の忍者的分析

また、忍者は眠りが深い人と浅い人の特徴についても分析しています。
「老人は眠りが浅く、若者は眠りが深い」
「痩せた人は眠りが浅く、太った人は眠りが深い」
「頭の回転が早く、せっかちで、身嗜みを整えているような、まじめな人は眠りが少なく、ダラけていて、大酒を好み、遊興にふけるような人は眠りが深い」とされます。
どうやら忍者は、体内の水分と睡眠の深さが関係していると考えていたようです。
水分が多い人ほど深く眠るということでしょう。
このような忍者の分析が正しいかどうかは不明ですが、忍者が眠りを深く探求していたのは間違いなさそうです。

 

忍者は、昼寝を推奨していた

このように聞くと忍者自身は睡眠を忌避していたように思いますが、忍術伝書の『万川集海』にはこんな記載があります。
「忍ぶべしと思う前、昼寝する。人間の行動や睡眠は、自然に昼と夜があるのと同じである。心が(はや)り猛っていても、敵地で眠くなると大失敗する」
つまり「夜に敵地を攻める前は、眠くならないようにしっかり昼寝をしておけ」と言っているのです。

もちろん、敵が忍び込んで来るかもしれない夜に「用心して眠らないように耐える」という教えもあります

 

野宿修行で睡眠力を養ってみた

夏に野宿をしながら旅する修行を何度か行ったことがあります。
90Kmの道のりを3日かけて移動するというものでした。
水や食料などが入った大荷物を背負い、長距離をずっと歩き続けるのですから、睡眠による疲労回復は大変重要です。
私が野宿したのは、田んぼの畦道や公園の隅などですが、なかでも人気のない山中で寝たときは、とても怖かったです。

恐怖でなかなか寝付けず、1時間おきに目を覚ますような浅い眠りを繰り返しました。 この日の夜はとても長く感じました

 

安全な寝床を確保するのはとても難しい

野宿を経験すれば、野外で寝ることがいかに困難であるかがわかります。
夜露朝露・動物・虫・気温・人間……と、さまざまな障害に対応しなければなりません。
特に硬い地面・傾斜地・石の多い場所で横になるのは大変です。
このような経験は、寝床を取るにはどんな場所が良いか、どんな服装や装備があれば寝やすくなるのか、という経験を養ってくれました。

最も気を張ったのが身の安全です。落石、倒木、川の近く(増水のリスク)、野生動物、治安などの心配がある場所での野宿は避けました

体温を保持しやすい場所は、寝床に適しています。特に風には注意が必要でした。夏でも風がよく抜ける場所ではどんどん体温が奪われるからです。また、蚊や虻といった刺す昆虫の少ない場所であることも大切でした

皆さんも野宿とまではいかなくとも、公園のベンチや芝生など、身の周りのいろいろな場所で、ちょっと横になって寝心地を試してはいかがでしょうか。
また、布団を敷かず家の床で一晩寝てみたり、キャンプに行くのも良い稽古になると思います。

 

2回へ、つづく

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解説

習志野青龍窟(ならしの・せいりゅうくつ)

忍道家。武術家。松聲館技法研究員。港区防災アドバイザー。各種イベントや国内外のメディアに多数出演。映画の忍術指導も担当。山修行や断食の実践、稽古、国際忍者学会への参加など精力的に活動している。今に役立つ温故知新の心身運用法を指導している。小学校や大学などでセミナーや教室なども開催している。
X(旧Twitter)アカウント:習志野青龍窟 忍道家(@3618Tekubi
YouTube:忍道家 習志野修行チャンネル

 

イラスト

齊藤きよし(さいとう・きよし)

忍術研究家。デザイナー。イラストレーター。パルクール講師。桑沢デザイン研究所卒業後、某自動車企業勤務を経て独立し、現在は「Shinobi Design Project」を立ち上げ活動。自ら古典的な忍術を研究・修行・実践し、現代の仕事や暮らしに活かせる生きた忍術を探求。学校等で忍術を活かした体験・実践的な情報教育の指導も行う。著書に『図解 万川集海』。「SDP STORE」にて忍器・忍具の製作と販売も行う。
X(旧Twitter)アカウント:きよし|デザインと忍者とパルクール(@Kiyoshi_Design
公式ホームページ:Shinobi Design Project