「胸・お腹・腰回り」部位ごとの立体感を大まかに把握するには?
加藤:
前回は箱のガイドを使って、胴体の立体感を大まかに把握する方法をお伝えしましたが、胴体を描写するうえで、ほかに気になる点はありますか?
畑:
もう少し細部の立体感というか、体の凹凸をバランス良く描く方法が知りたいです。
胸・お腹・腰回りといった各部位の形状をざっくり把握するにはどうすればよいでしょうか?
加藤:
なるほど、そういう時は体の断面を想像しながら描くとよいかもしれません。
人体の特定個所の断面を抜き出して、それを目印に各部の形状やバランスを確認する方法です。
詳しく見ていきましょう。
胴体の目印になる断面は4カ所
加藤:
まず、どこに断面を設定するかですが、これはあまり数が多いと手間がかかるので、4カ所程度が現実的です。
今回は、欧米で「ラッピングライン」と呼ばれている場所に断面を設定しました。
加藤:
そして、この場所の断面はこのようになっています。
断面を一般用語で理解できる程度に簡略化
加藤:
詳細な断面図を理解するには少し専門知識が必要なので、一般用語で理解できる程度に断面の形を単純化しましょう。
すると、こんな感じになります。
それぞれの断面の大まかな形状や大きさの違いに注目してください。
今回は男性の断面ですが、女性になると断面の形状や大きさのバランスは、当然変わります。
お風呂に入った時など、自分の体で確認しやすいようにまとめたので、なんとなく想像できるのではないでしょうか。
シンプルな円筒形をヒントに胴体にかかるパースを読み取る
加藤;
この断面を立体的な視点の人体イラストに当てはめるとこのようになります。
今回は、胴体についてのみ解説をしますが、同じ方法は腕や脚の立体感を把握するのにも有効です。
加藤:
ここでポイントになるのは、パースを意識することです。
円筒形に水平面(断面)を描いて、パースのつき方を確認する方法がありますが、それを人体に応用する感じです。
円柱の場合だと「手前側の見えている断面線」と「奥側の隠れて見えない断面線」の形がきれいな円形になっていないと、円柱は歪んで見えますよね。
人体も同じように、断面の輪郭がパースに沿った形になっていないと、歪んだ作画に見えてしまいます。
畑:
「ラッピングライン」は、断面線の間隔がほぼ等間隔なので、胴体にパースがついた状態で各部の距離感やバランスを確認しやすいですね。
ちなみに、私の場合は、胴が長くなり過ぎないように、縦の長さを少し短く調整します。
感覚的に胴体が2頭身分くらいに収まると可愛く見える気がするので。
ちょっと寄り道、美術解剖学こぼれ話「巨匠の人体断面図」
加藤:
余談ですが、人体を断面で把握する方法はけっこう歴史が古くて、レオナルド・ダ・ヴィンチやアルブレヒト・デューラーといったルネサンスの巨匠たちの素描にも見られます。作例は多くないので、断面の形状を意識できているのか、確認する意味も含めて描いたのではないかと思います。
加藤:
次回は胴体の表面の凹凸について、もう少し詳しく見ていきましょう。
今回もお疲れ様でした!
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『ベテラン漫画家 キャラ作画の秘訣を 美術解剖学者に聞く』記事一覧へ
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畑健二郎(はた・けんじろう)
漫画家。福岡県生まれ、兵庫県出身。『ハヤテのごとく!』(小学館)、『それが声優!』(はじめまして。)、『トニカクカワイイ』(小学館)などの人気マンガ作品を数多く執筆している。『トニカクカワイイ』は、週刊少年サンデーにて大人気連載中!
X(旧Twitter)アカウント:畑健二郎@『トニカクカワイイ』連載中!(@hatakenjiro)
加藤 公太(かとう・こうた)
美術解剖学者。イラストレーター。グラフィックデザイナー。東京都生まれ。文化服装学院 服装科卒業。東京藝術大学デザイン科卒業。東京藝術大学大学院美術解剖学研究室修了。X(旧:Twitter)で“伊豆の解剖学者”(@kato_anatomy)として美術解剖学に関する情報を発信している。