体の稜線を強調することで立体感を出せる
畑:
女性キャラをセクシーに描きたいときや、男性キャラをたくましく見せたいときなど、体の立体感はとても大切だと思います。
そういう時は、資料を見ながら人体の起伏を確認して描くようにしていますが、効果的な方法はありますか?
加藤:
胴体に立体感を出すには、陰影をつけるのが効果的です。
たとえば、下の図のように輪郭線だけだと平面的に見える図形も、赤線のような「稜線」を描くだけで立体物であることを認識しやすくなります。
同じように胴体も「体の稜線」を描いて、それに応じた陰影をつけることで、立体感が増します。
厚塗りのイラストやアニメの原画なども稜線部分の陰影が濃い色や彩度の強い色で描かれていたりすると思います。
加藤:
稜線を描いて陰影をつけると、このような真正面や真横の平面的なアングルでも、胴体の厚みを表現することができます。
ちなみに、稜線の位置は光源の位置で変化するので注意してください。
胴体前面の立体感は、「大胸筋」と「腹直筋」の把握が大切
畑:
体の稜線を描くうえで、最低限把握しておくとよい筋肉はどこでしょう?
特に肩の周辺は、かなり変幻自在に動く部位なので、個人的には形を把握するのがとても苦手です。
加藤:
胴体の前面に関して言うと「大胸筋」(オレンジ色)と「腹直筋」(ピンク色)を把握しておくとよいでしょう。
特に大胸筋は、腕の位置によって大きく変形するので、よく観察したいポイントです。
腕を下げた姿勢だと「大胸筋」と「腹直筋」の両者の形状の違いはハッキリしていますが、腕を真上に上げると大胸筋が上に引き伸ばされて、腹直筋の輪郭と直線的につながるような形状になります。
男性の乳首の自然な位置と形状
畑:
少し細かいですけど、男性の乳首はどこに設定すると自然ですか?
加藤:
乳頭の高さは、男性の場合、第4と第5肋骨の間が標準で、形状は正面から見ると「ハ」の字になります。
加藤:
女性の乳房の下のラインは、第6肋骨の上あたりですね。
腕を真上にあげると乳房の形は平らにつぶれる
畑:
女性の「大胸筋」と「腹直筋」の変化については、どうですか?
加藤:
基本的なポイントは男性と同じです。
女性の場合は、男性に比べて筋肉量が少ないので、起伏が不明瞭になる点を意識してください。
特に胸筋の下部は乳房に隠れて見えなくなります。
加藤:
乳房は腕を上にあげた姿勢だと、位置が高くなり、上下に引き伸ばされて形が扁平になる点がポイントです。
畑:
試しに描いてみました。
見本イラストのおかげで、肩の動きに付随する乳房の形状変化をシンプルに把握できました。
ただ、全体的に動きが少し硬い印象があります。
今回ポイントになっている肩や大胸筋以外の全身の変化を見落としているのかもしれません。
加藤:
ご指摘の通り、今回の見本イラストでは表現していませんが、実際は、腕をあげると腹部も上に引っ張られるので、くびれが少し強くなります。
また、腕を上げることで背骨が反るので、それによって腰が少し前に出ます。
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畑健二郎(はた・けんじろう)
漫画家。福岡県生まれ、兵庫県出身。『ハヤテのごとく!』(小学館)、『それが声優!』(はじめまして。)、『トニカクカワイイ』(小学館)などの人気マンガ作品を数多く執筆している。『トニカクカワイイ』は、週刊少年サンデーにて大人気連載中!
X(旧Twitter)アカウント:畑健二郎@『トニカクカワイイ』連載中!(@hatakenjiro)
加藤 公太(かとう・こうた)
美術解剖学者。イラストレーター。グラフィックデザイナー。東京都生まれ。文化服装学院 服装科卒業。東京藝術大学デザイン科卒業。東京藝術大学大学院美術解剖学研究室修了。X(旧:Twitter)で“伊豆の解剖学者”(@kato_anatomy)として美術解剖学に関する情報を発信している。