換気扇はシロッコファンがお薦め|換気-空気の道をデザインする⑤

家にいる時間が圧倒的に増えることによって、俄然注目を浴びるようになった“換気”。設備設計者として第一線で活躍し、多くの著書を執筆している山田浩幸氏が、家における正しい換気の方法について解説します。

はじめに

人が家のなかで快適で安全に過ごすために、換気は重要な要素です。最近ではリモートワークの普及が進み、自宅で過ごす時間が確実に増えました。適切な換気はウイルス感染症対策にも有効であるといわれています。

では、換気は具体的にどのように行えばよいのでしょうか? 本稿では、「換気の目的とメカニズム」「換気の方法(自然換気と機械換気)」「夏の換気・冬の換気」について、設備設計者として数多くの建物にかかわり、『世界で一番やさしい建築設備』『エアコンのいらない家』『建築設備パーフェクトマニュアル』『ストーリーで面白いほど頭に入る建築設備』(いずれもエクスナレッジ刊)の著者としてもおなじみの山田浩幸氏(yamada machinery office[ymo])に、それぞれのポイントを解説していただきました。

 

5 第3種換気の盲点-屋外フードと換気扇-

C: 屋外フードは低圧損失型を選ぶ

低圧損失型とは、空気抵抗が少ないものをいいます。給気口は壁面にただ孔があいているだけの状態ではありません。屋外フード、エアフィルター、フロントキャップなど、むしろ空気の流れを阻害する部材で構成されています。

それらの空気損失量を示したものが「圧力損失特性図」です。この図を見れば、風量と圧力損失(静圧)の相関を理解できますので、屋外フードを選択する際は必ずチェックするようにしてください。具体的には、換気量100㎥/h時に圧力損失が20Pa以下の製品を選ぶとよいでしょう。

 

「KKN-S」の圧力損失特性図。φ100の場合、150㎥/hの風量を確保しようとすると、静圧が20Pa程度になり、外気を室内に取り込みにくくなるが、φ1 5 0 にすると、20Paを大きく下回るので、外気をスムーズに室内へと送り込むことができる

 

屋外フードのデザインがシャープで見た目にも美しいのは「KKN-S」(西邦工業)。私もよく採用している製品です。「KKN-S」はφ150の製品の場合、風量が100㎥/hなら圧力損失は5Paにも満たないという優れものです。

 

外壁側に取り付ける、ステンレス製の屋外フード「KKN-S」(西邦工業)。角ばった意匠がスタイリッシュな印象を与える(左)。内壁側に取り付ける樹脂製のプッシュ操作式レジスター「JSP」(西邦工業)。オフホワイトでシンプルなデザインが特徴(右)

B: 換気扇はシロッコファンがお薦め

排気能力は換気扇の種類によって異なります。戸建住宅でよく使われるのはプロペラファン(パイプファン)シロッコファンですが、お薦めはシロッコファンです。

プロペラファンは空気を吸い込む力がシロッコファンに比べて弱い(静圧が低い[※1])ので、パイプの延長が難しく、風量もせいぜい約1020㎥/hにしかなりません。現代の高気密・高断熱住宅では、静圧が高いシロッコファンのほうが望ましいといえます。静圧の高い機種を選べば、排気ダクトを10m程度引き回しても、風量を100㎥/h以上確保することも簡単です。

 

プロペラファン(壁付け換気扇・バイブファンなど)。プロペラが回転することで、外壁から直接排気を行う。排気能力(静圧)はシロッコファンに比べてダクト抵抗に弱い 

シ ロッコファン(レンジフード・天井埋込み型換気扇など)。羽根が回転することで、パイプ経由で外壁から排気を行う。レンジフードなどに使用される。大風量の換気が可能で、ダクト抵抗にも強い

 

換気扇の能力を見極める手段とし「P-Q・騒音特性図」があります。パイプ長さと運転の強度ごとに、必要な静圧と必要な風量の目安を判断することができます。

たとえば、私がよく使用する「VD-15ZVE5-FP」(三菱電機)は、ダクト長さ10mの場合、風量150㎥/hであれば静圧は40Pa必要です。「P-Q・騒音特性図」を見ると、風量と静圧の交点は強運転の内側にあるため、そのモードであれば換気量が問題なく確保できると分かります。したがって、第3種換気を行う場合は、給気口には低圧損失型の製品、排気口(換気扇)にはシロッコファンの製品を選べばよいのです。 

 

 

シロッコファンのP-Q曲線図[※2]。P-Q曲線図ではパイプの長さごとに抵抗曲線が、運転の強度(弱・強・急速)ごとに静圧と風量の限界範囲が示される。限界範囲の内側であれば、十分な排気が可能。高い静圧能力をもつことが分かる。グラフは「VD-15ZVE5-FP」(三菱電機)のP-Q曲線図

 

最近では、エアコンに負荷をかけずに室内の温熱環境を良好に保つため、全熱交換型(顕熱・潜熱)[※3]の第1種換気システムを導入する動きが活発化しています。趣旨は理解できますが、第3種換気に比べると導入コストが増大するのが難点です。

戸建住宅1棟当たり、第3種換気システムなら材工で約40万〜50万円程度ですが、全熱交換型の第1種換気システムは約200万〜300万円程度になります。寒冷地の住宅で厳寒期に0℃を下回る冷気を室内にそのまま取り込みたくないなど、特殊な環境下では全熱交換型は有効ですが、それ以外の条件であれば、第3種換気システムで事足りるというのが私の考えです。

 

※1 静圧とは、空気が静止した状態で周囲を押す力。空気が詰まったタイヤや風船は静圧が高く、小さな穴が開くと、空気が勢いよく飛び出す。空気が詰まっていなければ静圧が低く、空気が勢いよく飛 び出さない

※2 「P-Q・騒音特性図」はP-Q曲線図のほか、運転の強度ごとに消費電力(W)、正面騒音(dB)の数値が示されている

※3 全熱交換型の換気システムは、顕熱(温度)と潜熱(湿度)がもつすべての熱を交換する。最近の全熱交換型換気システムはエンタルピー(顕熱と潜熱の合計)熱交換効率が80%程度。エアコンの運転効率向上に貢献している

 

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