JAS製材でつくる木造4階の建築―睦モクヨンビル—

日本初のJAS製材を用いた木造4階建てビル「睦モクヨンビル」。木のよさを最大限に生かす意匠計画と合理的な構造計画の絶妙なバランスで誕生した建物です。今後の普及が期待される中層木造建築において、設計の道しるべになるでしょう。

4階からの見下ろし。“その他の建築物”という条件を生か した4層の吹抜けとなっており、木の豊かさを存分に味わえる設えになっている

 

「睦モクヨンビル」(長崎県壱岐市)は、2019年の建築基準法改正(法21条)により、防耐火要件のかからない〝その他の建築物〞[※1]として、JAS製材のみで木造4階建てを実現した国内初の事例です。

3階建てまでの低層木造建築とは異なり、JAS製材を用いた4階建て建築の設計・施工は前例がないことから、構造設計者・製材所・プレカット業者・施工者といったパートナー探しに苦労しましたが、構造設計を担当してくれた渡邉須美樹さん(木構堂)の力強い後押しもあり、’23年1月に無事、竣工を迎えられました。

 

※1 法21 条1 項において木造4 階建て建築物(地階を除く階数が4 以上)は耐火建築物(もしくは耐火建築物と同等の性能を有する準耐火建築物)としなければならないが、建築物の周囲に延焼防止上有効な空地(建築物がそのまま真横に倒壊した場合における範囲、建築物の各部分からその“高さ”と同じ長さの“水平距離”で囲まれた範囲[令109 条の6])を確保できる場合は規制対象外で、木造建築を“その他の建築物”として計画できる

 

建物の外観。午前のさわやかな日差しの中では、表面 の白華した部分が強調されるので、建物の表情が単調 にならない

 

4階建てとなると、柱の引抜き力が大きくなるので、ヤング係数(E)が明確に表示された機械等級区分構造用製材を指定しています。

プランはシンプルが基本。複雑になると、構造計算適合性判定の対象になるので、この建物では、田の字形プランという木造の基本的な間取りをベースにプランを練り上げています。渡邉さんからも「ルート2(許容応力度等計算)で確認申請を通せる」といお墨付きをもらったので、安心して設計の細部を詰められました。

規制緩和という条件はありますが、近い将来には4階建てのペンシルビルが多い都市部で、燃えしろ設計を採り入れたJAS製材による木造4階建て準耐火建築物の設計を手がけてみたいですね[※2]

松本隆之

 

※2 令元国交告193号第1第1号ヌによると、建築物の周囲に幅員3m以上の敷地内通路を設けると、JAS製材の燃えしろ設計を適用した木造4階建て準耐火建築物を建築できる

 

間取り メーターモジュールと尺モジュールの融合

当初は4つのボックスを隣接させるプランだったが、床面積を300㎡以下に抑えたうえで[※3]、耐力壁の壁量を確保しながら、バランスよく配置し、塔状比を4以下に収める、という目的を達成するため、4つのボックスを対角線上にスライド。中央部に大きな吹抜けと移動空間を設けるプランに変更しています。

 

 

 

 

※3 課された条件は具体的に以下の4点。①建築基準法において、各用途部分(1階がカフェ、2階が宿泊施設、3階がコワーキングスペース、4階がワーケーション施設)の面積が特殊建築物扱いになる面積以下に抑える[法別表1]、②建築物省エネ法で省エネ適判の対象にならない[建築物省エネ法11条1項]、③消防法で自動火災報知設備を建物全体に設置しなくてもよい[消防法施行令別表1]、④長崎県建築基準条例の取り扱い(長崎県福祉条例において特定施設の対象とならない規模)による

 

構造 ペンシル型の4層構造を“ JAS製材”のみで実現

建物の最高高さは14.65m。防火地域・準防火地域以外の地域に計画される建築物について、従来は最高高さが13m、軒高が9mを超えると耐火建築物にしなければならかったが、法21条の改正により、今は最高高さ16m以下(軒高の制限はなし)であれば“その他の建築物”として設計できるようになりました。

軒高の制限がなくなったことで、ペンシル型のシルエットを表現。「当初は雨仕舞いを考慮して、建物のシルエットを末広がりにしようと思ったのですが、お城のような印象になってしまうほか、軒を出したくなかったこともあり、シンプルな形としました」(松本氏)。

 

 

接合部 管柱と床梁をつなぐ製作金物と既製品金物の取合い

180㎜角の大断面柱と床梁の取合い。柱頭部分のベースプレートと柱側面のドリフトピンが露出しているのみで、金物の大部分は隠蔽されている。一方、天井や壁を仕上げていないので、設備配管(空調・電気)は露出している

150㎜角や180㎜角などの柱は、土台を敷かずに基礎と直接接合させている。9㎜厚の制作金物を柱に差し込み、アンカーボルトで基礎と緊結。金物本体はほとんど見えない

製作金物を取り付けた後の様子。上下の柱(スギ)と梁(ベイマツ)を一体化する9㎜厚の製作金物が埋め込まれている

梁勝ちの場合

柱勝ちの場合

 

階段 CLTでつくる無骨な木の階段

90㎜厚(3層3プライ)のスギCLT(製造はサイプレス・スナダヤ)による造作の階段。プレカットされた壁柱、段板、ささら桁を現場で組み立てた。ささら桁から跳ね出した分厚い段板が木の力強さを表現している

段板との取合いがプレカットされたCLTの壁柱を上からクレーンで落とし込んで、基礎に埋め込んだXマーク金物と接合している様子

ささら桁(下部)を×マーク金物に落とし込んでいる様子。設置後は、M16ボルトを用いて金物との接合を行う

段板はささら桁(下部)に落とし込んだ後に、ささら桁(上部)を段板に落とし込む。接合金物は使用していない

 

内外装 引き締まった外観と木材を多用した内観

外壁には「SOLIDO typeM_LAP」の“鉄黒”を採用。夕暮れ時には、その黒く引き締まった色合いが強調され、中に透けて見える木材の素朴な色合いとも相まって、退廃的な美しさを感じる

構造材や造作材、化粧材など、多種多様な木材を内装に生かしたのも大きな特徴。中央の大開口越しにも、木の温もりが伝わってくる

 

NOTE 「睦モクヨンビル」で採用された建材

構造

機械等級区分構造用製材 

  土台:宮崎県産ヒノキ120(□ E90)/都城木材
  柱:宮崎県産スギ120□・150(□ E50)/都城木材
   :福島県産スギ180(□ E50)/協同組合いわき材加工センター
  横架材:ベイマツ120×150~300(E110)/中国木材

CLT(Cross Laminated Timber) スギ㋐90(3層3プライ)/サイプレス・スナダヤ

構造金物 プレセッターSU/BXカネシン

     HPB-46/タツミ

 

外部

越屋根(ガルバリウム鋼板) ニクスカラーPro GH ブラック/日鉄鋼板

陸屋根(ウレタン塗膜防水) オルタックエース/田島ルーフィング

外壁(窯業系サイディング) SOLIDO typeM_LAP鉄黒/ケイミュー

開口部/1階(長崎県産スギ仕様木製建具) 製作/稗田木工所 

木質カーテンウォール アコヤ/池上産業

開口部/2階~4階(アルミ樹脂複合サッシ) エピソードⅡ NEO/YKK AP

 

内部

内部造作材 スギ(長崎県産材)

木部塗装(柿渋塗装仕上げ) 無臭柿渋/ターナー色彩

 

「睦モクヨンビル」は受賞歴多数

令和5年度木材利用優良施設等コンクール 審査委員会特別賞 
令和5年度全国木造プレカット協会賞 入賞
ウッドデザイン賞2023 入賞
令和5年度建築九州賞 入賞
令和5年度木の建築賞 入賞
第27回木材活用コンクール 最優秀賞農林水産大臣賞+木質開拓賞 W受賞
2024年度 ながさき建築賞 大賞受賞
令和6年度 日事連建築賞 優秀賞
2024年度 JIA日本建築大賞現地審査進出 優秀建築賞100選

 

取材協力:松本隆之[まつもと・たかゆき]

長崎県壱岐市で設計事務所(睦設計コンサルタント)を運営。住宅・非住宅問わず、数多くの木造建築を設計しており、木造2階建て商業施設「壱岐チャリサービスステーション」(その他の建築物)は「長崎建築賞奨励賞」、木造2階建て高齢者福祉施設「特別養護老人ホーム壱岐のこころ」(準耐火建築物)は「長崎県福祉のまちづくり賞」、木造平屋の葬祭施設「壱岐葬斎場~ひなたの丘~」(準耐火建築物)は「長崎建築賞奨励賞」を受賞。いずれも、製材を使った木の構造を見せるデザインを特徴としている

 

施工=山内組

竣工写真=嶋井紀博

 

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