築40年の木造戸建住宅。その断熱改修工事が2020年6月に完了しました。今回は、前 真之氏(東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 准教授・博士[工学])にご協力いただき、サーモカメラで取ったビフォーアフターの画像を見比べます。
築40年の木造2階建ての家。1階に寝室と浴室、子ども室があり、2階には2層吹抜けになったLDKと子ども室があります。吹抜け部分にはブリッジ空間が設けられています。
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早速、高性能グラスウールの効果を見ていきましょう。
サーモグラフィーカメラでの実測結果
こたつが必要なくなった2階リビング
2階リビング。窓はアルミ樹脂複合サッシに差し替え、高性能グラスウール「アクリアウール」を89㎜厚充填した。冬でも素足・半袖でくつろげる快適なリビングになりました。
前氏の見解
この建物が建てられた1990年頃は、個性を表現するために出窓が人気でしたが、残念ながら断熱性や耐久性の弱点になっていました。今回、高性能窓への入れ替えと、現場カットの高性能グラスウールによる丁寧な断熱施工により、出窓廻りの断熱欠損が解消され、快適な窓廻りの空間が実現しました。
ヒートショックの予防のためには、18℃以上の室温確保が望ましいとされています。左のグラフは2021 年2 月8 日~2021 年3 月16 日の期間における、外気とリビング中段の温度の分布を表しています。外気が5℃以下の冷え込む時間が14%ありますが、リビング室温が18℃未満となる時間は5% とごく短く抑えられ、ほとんどの時間で健康な温熱環境が確保できています(前氏)。
一番冷え込む明け方の室温を、断熱改修前後で比較してみましょう。外気温度は、改修前(2.9℃)のほうが改修後(4.4℃)より低温ですが、室温は2階リビング(中段)で3.9℃、1階子ども室(中段)でも2.6℃ほど高くなっています(前氏)。
温度差の小さい吹抜け空間
2階リビングには2層分の吹抜けがあります。改修前は暖房の暖かい空気がすべて上に流れてしまっていたが、改修後は上下の温度差が気になりません。
前氏の見解
複雑な形状の屋根や高窓も、断熱・気密の大きな弱点になり、室内の暖気の流出につながります。今回の改修で窓と屋根の断熱・気密を強化したことで、暖房時の省エネが期待できます。屋根・天井の断熱強化は、夏の日射で高温になる屋根表面からの熱侵入の低減にもつながるので、まさに一石二鳥です。
オンライン授業に集中できる子ども室
1階北側の子ども室。冬場は寒くて暖房なしでは過ごせなかったが、窓はアルミ樹脂複合サッシに交換し、断熱改修を行ったことで暖かい日であれば無暖房で過ごせています。
前氏の見解
2面に設けられた低断熱の大きな窓からの冷気に加えて、床の断熱・気密不足によって、床下の冷気が侵入し、部屋全体が足元から冷え切っていました。高性能窓への入れ替えとともに、床の根太間にしっかりと高性能グラスウールを敷き詰め、可変透湿気密シートで気密も確保したことで足元も暖かな空間が実現しました。
寒い冬の朝でも料理がはかどるキッチン
以前、キッチンの窓はポリカーボネートが挟み込まれているのみで、ほぼ屋外のような場所でした。天窓は現場製作でLow-E遮熱複層ガラスに差し替え、断熱改修したことで、朝も気持ちよく食事の準備ができます。
前氏の見解
高窓は採光に優れていますが、断熱・気密の弱点になりやすいため要注意。今回の断熱強化で、家事をする人にとって一番大事なキッチンの温熱環境も大きく改善しました。
毎日快適に寝起きできる寝室
南側1階の寝室。寒い日はエアコンをつければすぐに暖まります。今まで使っていた毛布も必要なくなったそうです。
住まい手の声(40代夫婦)
2020年6月下旬、築40年のわが家の断熱改修を含めたフルリノベーションが完了しました。入居後すぐ、リビングのエアコン冷房を25℃に設定して「24時間連続運転」に挑戦。すると、家のどこにいても温度差を感じず、快適に夏場を過ごすことができました。改修前の2019年8月の電気代は34,717円もかかっていましたが、2020年7月の電気代は13,751円。明らかにエアコンの稼働率が減った結果です!
リノベーション後に過ごす初めての冬は、家が暖かいことで思わぬハプニングも。朝、「暖かいから上着は必要ない」と言って学校に行った子どもたちが、「外は寒い! コートが必要!」と言いながら戻ってきたのです。朝起きたときもベッドからサッと抜け出せて、活動的な冬が過ごせました。よっぽど気温が下がる日以外は、ほぼ無暖房でいられたことも驚きでした。
改修を終えて 中西ヒロツグ氏(イン・ハウス建築計画)
予算や工期、施工条件など制約の多い改修工事では、効果的な断熱改修が求められます。今回の改修では、窓の交換に加え、1階床、屋根、壁の順に優先順位をつけて性能向上の改修を行いました。
高性能グラスウールは、下地間隔に多少のばらつきがあっても充填が可能で、十分な性能を確保できるのでとても重宝します。UA値という数値に捉われすぎず、現場に即した改修方法で、住まいの耐久性や暮らしの質を高めることが重要と考えています。
設計:中西ヒロツグ(イン・ハウス建築計画)
施工:鳶高橋
取材協力:前真之氏(東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 准教授・博士[工学])/旭ファイバーグラス