若い頃に読んだエコハウスの書籍
私の設計の考え方に影響を与えてくれた6冊を選んでみました。中心となるのは、私が20代後半から30代の頃、高断熱・高気密住宅が登場したときに興味を持って読んだ本です。当時と現在では工法や材料、設備など異なる点も多いですが、基本的な考え方や思想は現在にも通じる点が多く、改めて読んでみるととても参考になります。
西方里見さんが選んだ本はこちら!
01.住まいから寒さ・暑さを取り除く:採暖から「暖房」、冷暴から「冷忘」へ
02.断熱 超実用テクニック読本
03.北の住まいを創る
04.世界基準の「いい家」を建てる
05.燃費半分で暮らす家
06.寒さ暑さに負けない建築設計手法
01.住まいから寒さ・暑さを取り除く
:採暖から「暖房」、冷暴から「冷忘」へ
この本の元となったのは、「採暖から暖房」という本です。日本建築学会北海道支部で設けられた寒地住宅保温協会で企画され、1976年に発行されたこの本は、一般の書店で販売された最初の高断熱・高気密住宅の本と思われます。
ちなみに、同協会では1987年に「気密シート住宅の換気」、2003年に「省エネルギーから再エネルギーへ」、2007年に「断熱建物の夏対応」、2010年に「断熱から生まれる自然エネルギー利用」と計5冊が発行されました。これらを1冊にまとめて再編集されたのがこの本です。
著者の荒谷登さんは、長年にわたり北海道大学で教鞭を執った方で、高断熱・高気密住宅の理論的な先導者でした。また、彼自身が設計した1979年に完成した自宅は、現代の高断熱・高気密理論に通じる先駆的な住宅です。
同書は、かなり早い時期に暖房のあり方を明確に示したことが評価されています。これまでの日本で行われてきたいろりや火鉢、ストーブなどに人が集まって暖を採る「採暖」ではなく、部屋全体、家全体を暖める暖房を推奨し、それを可能にする技術として高断熱・高気密住宅を提示しています。また、多くの設計の工夫が提案されており、今でも非常に参考になります。
住まいから寒さ・暑さを取り除く:採暖から「暖房」、冷暴から「冷忘」へ(彰国社)
定価:2,000円+税
著者:荒谷登
ページ数:223
判型:B6判
発行年月:2013/08
02.断熱 超実用テクニック読本
「建築知識」1987年1月号(特集:北国に学ぶ「暖かい住宅」北海道探訪編)は、建築知識の特集企画で初めて高断熱・高気密住宅が取り上げられた号で、当時書店に流通していた本では、高断熱・高気密住宅の理念と実践・実用が最もうまくまとめられていたと思います。
主要な執筆者である鎌田紀彦さんは、当時、室蘭工業大学の助教授で、現在に受け継がれている木造の高断熱・高気密住宅工法(新在来木造構法など)の開発に最初期から関わった方です。同書では、高断熱・高気密住宅の重要な部分である気密をどう捉えるか、どのように結露が発生するか、そしてそれを防ぐにはどうすべきかが、概念図や詳細図、立体図(アイソメ)、データの数値などを通じて、分かりやすく具体的に説明されています。さらに、実際の住宅4棟と実験住宅3棟を用いて、熱容量や暖房、換気などについて、個々で実践できるように解説されています。
ちなみに40年近く前の雑誌ということもあり、その後に発行された「建築知識1999年3月号(特集:本音で語る[高断熱・高気密])」とともに再編集されたムック「断熱 超実用テクニック読本」のほうが手に入りやすいと思います。筆者は1999年3月号のほうで、断熱材や断熱工法、断熱サッシ、木製サッシについて執筆しました。
断熱 超実用テクニック読本(エクスナレッジ)
定価:2,400円+税
ページ数:174
判型:B5判
発行年月:2002/04
03.北の住まいを創る
著者の菊地弘明さんは、鎌田紀彦さんより前に室蘭工業大学で教授をされていた方で、高断熱・高気密住宅の最初期に研究・開発をされていた1人です。
1976年に最初の高断熱・高気密住宅の本として「採暖と暖房」が発行されましたが、理論から設計まで解説された本としては、1995年「北の住まいを創る」が最初だったと思います。もちろん、新在来木造構法などは技術資料や論文などで発表されてはいましたが、高断熱・高気密住宅は研究・開発の最中で、設計手法をまとめた本は出版されていませんでした。そのため、私は当時、この本をむさぼるように読み、高断熱・高気密住宅を勉強したものです。
菊地先生の実践で驚かされたのは、外壁と屋根の断熱材(グラスウール)厚300mmのOPS工法(1987年工法発表)と称されるパネル工法でした。これは現在のパネル工法の先駆的実例です。また、煙突付きのポット式石油ストーブで二重煙突により排熱を回収しながら新鮮な空気を導入する熱交換換気暖房システムは、非常に簡単かつ設備的にもシンプルで、シンプルな設備で温熱環境を設計するうえでの参考になりました。
北の住まいを創る(北海道大学出版社)
定価:3,200円+税
著者:菊地弘明・飯田雅史
ページ数:336
判型:A5判
発行年月:1995/04
04.世界基準の「いい家」を建てる
森みわさんは、海外でドイツ基準の高性能住宅であるパッシブハウスの設計実務を積んできた方で、現在は国内で住宅などを設計するとともに、パッシブハウスジャパンの代表理事として、国内でのパッシブハウスの普及に尽力しています。
森さんは2005年から付加断熱工法を実践し、2006年には外壁がグラスウール240mm厚・屋根が400mm厚、窓は木製サッシダブルLow-Eトリプルガラスに、顕熱熱交換換気システムを導入したパッシブハウスを設計しました。
副題に「日本初[パッシブハウス]は、ここがすごい」とあるように、森さんの設計の実例をベースに、パッシブハウスの考え方やその中身を明らかにしていきます。
当時、私はパッシブハウスの設計経験がなかったのですが、この本を読んで、パッシブハウスの概要を理解しました。
世界基準の「いい家」を建てる
―省エネ低CO2排出 日本初「パッシブハウス」は、ここがすごい(PHP研究所)
定価:1,300円+税
著者:森 みわ
ページ数:196
判型:B6判
発行年月:2009/07
05.燃費半分で暮らす家
鎌田紀彦さんが中心となって設立した新住協では、会員向けにさまざまな技術資料がつくられていましたが、それらを再編集・加筆して書店で販売したのが、「燃費半分で暮らす家」です。
この本では、省エネルギー基準の高断熱・高気密住宅で全室連続暖房を行うと、一般住宅の暖房燃費の倍近くになることに着目。全室連続暖房を行いながら、燃費を省エネ基準の半分に減らすためには、どのくらいの性能を目指すべきか、どのような設計を行うべきかを、具体的なデータや図面とともに解説しています。
続編に当たる「Q1.0住宅 設計・施工マニュアル」「Q1.0住宅 計画マニュアル」では、最新の設計手法が提案されており、より深く高断熱・高気密住宅の仕組みが学べるようになっています。
燃費半分で暮らす家(市ヶ谷出版社)
定価:1,500円+税
監修:鎌田紀彦
著者:松留愼一郎・鈴木信弘・佐藤 勉
ページ数:168
判型:A4判
発行年月:2017/01
06.寒さ暑さに負けない建築設計手法
初期の高断熱・高気密住宅に取り組んだ実務者の多くは、北海道の工務店でした。一方、建築家の多くは高断熱・高気密住宅に消極的でしたが、いち早くこの新しい工法に取り組んだのは、小室雅伸さんでした。当初はコンクリートブロックの間に断熱材を充填する二重ブロック工法を実践していましたが、その後、RC造の外断熱や木造の充填断熱工法も行うようになりました。
本書では、小室さんが設計した14戸の実作が、平面・矩形、部分詳細図、温度測定データ、写真、説明文で紹介されています。そこには、高断熱・高気密住宅の初期ゆえの試行錯誤が見られますが、極限まで考え抜かれたシンプルな部分詳細図は、それ自体が小室さんの設計思想になっていて、とても興味深いです。
また、当時の高断熱・高気密住宅ではなかなか見られない、美しい外観や室内空間はいまでも参考になります。さらに、環境工学に立脚した熱や空気、水蒸気の流れも考慮したプランや矩計なども一見の価値があります。
寒さ暑さに負けない建築設計手法(彰国社)
定価:2,400円+税
著者:小室雅伸
ページ数:96
判型:B5判
発行年月:2013/10
数々の著者を読み込み、約40年にわたって高断熱・高気密住宅に取り組む西方里見さんの書籍も好評発売中です。
上記の書籍のエッセンスがギュッと詰まった令和版の最新情報が満載の1冊です。
最高の断熱・エコハウスをつくる方法 令和の大改訂版
定価:1,800円+税
著者名:西方 里見
ページ数:272
判型:A5判
発行年月日:2019/06/21
本書では、西方里見さんがエネルギー消費量ゼロ目指した家の考え方やメリット・デメリット、設計や施工、設備の具体的な手法などを事細かに解説しています。
また、著者が設計したゼロエネ住宅も最新の事例を中心に豊富な写真や図面とともに紹介しました。ゼロエネ住宅、エコハウスの入門書としても、マニアックな実務書としても使える必携の1冊です。
ゼロエネルギー住宅のつくり方 最新版
定価:2,700円+税
著者名:西方 里見
ページ数:128
判型:A4変
発行年月日:2023/09/19