GABAって効くの? 栄養機能食品って何? 身の回りの「科学的なもの」を徹底評価! 『科学がつきとめた疑似科学』

「これって効くの?」
「あれって本当に効果あるの?」
健康食品を前にした時やテレビ番組を見ている時など、日常の中でこうした疑問を抱くことも少なくありません。そうした疑問を抱いたときにうまく判断するためには、「科学リテラシー」を身に付ける必要があります。科学的とは言っているけどなんだか怪しい、つまり「疑似科学とされるもの」はどうやって評価すればよいのか。そのノウハウの一端をご紹介します!

◆「科学的」ってどういうこと?

そもそもわれわれの文明社会を支えてきた「科学」とはどういうものなのでしょうか。
一言で表現すると、科学とは何かを究明するための「方法論」であり、その方法論は大きく仮説と検証のサイクルによって成り立っているといえます。

つまり、ある理論に基づき具体的な仮説を設定し、それがデータによって検証されることによって理論が正当化され、一般化していく。科学という営みでは基本的にこれが繰り返され、われわれには認識できているのです。

 

医療やさまざまな技術など、身の回りに当たり前にある「科学の現場」は、仮説と検証のサイクルで成り立っている

 

科学の知見は日々更新され、特にデータの少ない最先端の知見には「ゆらぎ」があります。「科学は正しいため従うべきである」あるいは「科学も宗教のような思想の一つに過ぎない」といった極端なイメージを抱きがちですが、科学は「教義」ではなく「ツール(道具)」であるため、都合よく利用するマインドが重要です。

「科学的」だと評価することにおいて重要になるのが「理論」と「データ」です。

理論とは「物事のプロセスが説明できるか」ということ、データとは「仮説に基づいた結果があるか」ということです。さらには「理論とデータの関連性」や「経験としての効果や世間での受け入れられ方」などといった観点が、世の中のさまざまな物事を科学的か否かと判断するポイントになるのです。

 

◆「GABA」って何? 「睡眠の質を上げる」「肌状態の改善」の効果は怪しい…?

健康食品や民間療法などに顕著ですが、科学的に証明されているとうたっている物事の中には、「科学的であるかのように見えるが実は科学的とはいえない主張や言説、情報」つまり「疑似科学」も多く含まれます。

たとえばチョコレートやお菓子などでよく見かける「GABA」。

GABAはアミノ酸の一種であり、正式な成分名はγアミノ酪酸といいます。ヒトを含む哺乳動物の脳内に高濃度に存在する抑制性の神経伝達物質であり、自然界にはトマトやジャガイモ、ナスなどに含まれています。そして、その効果として血圧の降圧、睡眠の質やストレス・疲労感の軽減安定をはじめ、肌状態の改善などもうたわれています。

GABAの血圧への効果については、「交感神経末端のノルアドレナリン分泌の抑制やレニン(酵素)による血圧降下作用(短期~長期的)」などが有力視されて理論面も整備されつつあり、2004年に飲料水がトクホとして認可されています。
一方、体の外から摂取し、腸で吸収されたGABAが、「血液脳関門」を通過し脳内に移行することは理論的にはほとんどないと考えられるため、GABAがなぜ効くのかの詳細なメカニズムは不明な面もあります。

その他の効果についても、それらを標ぼうしているGABA含有の機能性表示食品申請数は800件以上(20237月時点)もありますが、機能性表示食品申請における個別の研究データを読む限り、GABA摂取によるストレスや疲労感については複数の実験があるものの、少数サンプルでの部分的な効果にとどまっており、安定的な効果を示すさらなるデータが必要だと思われます。

また、機能性表示食品申請の中でも「睡眠の質」や「肌への効果」については、さらに特定の12報の実験データを根拠としているようで、実はその効果もより限定的です。理論的なメカニズムとしても不明な点が多く、血圧作用の研究に比べて、理論・データの質量ともに不十分である面が否めません。

 

 

◆「機能性表示食品」と「トクホ」は信頼度が大きく違う!

健康効果が見込まれるとのことで、同じ「健康食品・サプリメント」として括られがちな「機能性表示食品」と「トクホ」ですが、必要とされるデータの質は大きく異なります。

「トクホ」とは「特定保健用食品」のことで、国が厳密に評価する基準です。申請するには製品を使用しヒトを対象とした実験データが必要です。その開発には数千万円以上の費用がかかり時間もかかる。そのかわり、国がお墨付きを与えているので、その効果はある程度信用できるといえます。

一方、GABAの件や紅麴の事件などでも記憶に新しい「機能性表示食品」は、届け出は有効成分に関する論文のレビューがあれば十分であり、被験者数や実験数などは基本的には問われません。
このような届け出だけで、企業の責任で効果(機能性)が商品パッケージや広告などに表示可能なので、企業の利用が飛躍的に伸びているのです。

ただ一概に効果が無いということではなく、「あくまでこの程度の信頼度で評価しているものですよ」という観点をわれわれ消費者がしっかり持つことが重要だといえます。

 

 

◆イメージや風評被害に騙されず、賢く生き延びよう!

デトックス、ブルーライトカット、水素水、電磁波有害説、牛乳有害説、シリカ水、メンタリズム、血液型性格診断、磁気治療器、EPADHAO-リングテスト、血液クレンジング、漢方、マイナスイオン、などなどなど…身の回りにあふれる疑似科学に騙されず、その真偽をしっかり評価すためには、科学的な考え方を身に付けることが重要です。

今回の記事でご紹介したのはほんの一部。もっと多くの「疑似科学」の事例や、科学的な検証方法について知りたい場合は、書籍『科学がつきとめた疑似科学』をご参考ください。

 

何が「科学的」かが図解でわかる、現代を賢く生き延びるための「科学リテラシー」の教科書!

『科学がつきとめた疑似科学』

著者 山本輝太郎 石川幹人
イラスト しりもと
定価 1,800円+税
ページ数 188
判型 A5判

 

著者プロフィール

山本 輝太郎(やまもと・きたろう)
金沢星稜大学総合情報センター 講師
明治大学科学リテラシー研究所 客員研究員
1988年岐阜県生まれ。明治大学情報コミュニケーション研究科博士後期課程修了。博士(情報コミュニケーション学)。専門は科学リテラシーで、メタ分析やクラウドソーシングなどの実証研究に強みをもつ。日本科学教育学会奨励賞、乳の学術連合最優秀賞をはじめ、科学リテラシーに関する研究業績において多数の受賞歴がある。疑似科学に関するプラットフォームサイトGijika.comhttps://gijika.com/)の責任者でもある。20224月より現職。

石川 幹人(いしかわ・まさと)
明治大学情報コミュニケーション学部 教授
1959年東京都生まれ。東京工業大学理学部応用物理学科(生物物理学)卒。同大学院物理情報工学専攻、企業の研究所や政府系シンクタンクをへて、1997年に明治大学に赴任。人工知能技術を遺伝子情報処理に応用する研究で博士(工学)を取得。専門は認知科学で、生物学と脳科学と心理学の学際領域研究を長年手がけている。主な著書に、『心と認知の情報学~ロボットをつくる・人間を知る』(勁草書房)、『人はなぜだまされるのか~進化心理学が解き明かす「心」の不思議』(講談社ブルーバックス)、『その悩み「9割が勘違い」~科学的に不安は消せる』(KADOKAWA)、『だからフェイクにだまされる~進化心理学から読み解く』(ちくま新書)、『職場のざんねんな人図鑑』(技術評論社)、『なぜ、穴を見つけるとのぞきたくなるの?』(朝日新聞出版)などがある。