建築好きの小説家とともに身近な街を再発見 『横浜の名建築をめぐる旅』『鎌倉の名建築をめぐる旅』

「――横浜自体が、日本の近代の庭という感じがする。文明開化、海外への窓、突き進む時代、変わりゆく暮らし。その過程が場面ごとに綺麗に保存されていて、道ゆく人が時代を辿りながら鑑賞することができる。」(恩田陸)/本文より

「鎌倉は関東の人間にとっては大事な場所だ。地元民に愛され、観光客にも愛され、古いものを大切にして鎌倉文化を維持している姿は、街のあるべき姿の一つの魅力的なモデルではないかと思う。」 (中島京子)/本文より

華やかな港町の横浜と、中世から続く歴史をもつ古都鎌倉。
建築の専門家と、それぞれの街に縁の深い小説家の目を通して、その魅力に迫るシリーズです。

◆『横浜の名建築をめぐる旅』より

港を臨む広場に建つ横浜のシンボル

赤レンガ倉庫 

 

海岸通りから横浜税関の角を北東に曲がると、急に視界が開け、海に一歩近づいた雰囲気になる。赤レンガ倉庫は、その先の、町の突端のような場所に建っている。この建築は、もともと倉庫として建てられたもので、普通の町や人間のスケールをはるかに超えているけれど、デザインのおかげでまったく単調にみえることはない。リズミカルに並ぶ飾り破風は、巨大な倉庫を家並みのようにみせていて、二棟に挟まれた空間は、倉庫街というより町中の広場のようだ。バルコニーは広々としていて、海風が気持ちよい。

 

DATA

1号倉庫:1913(大正2)年

2号倉庫:1911(明治44)年

設計:大蔵省臨時建築部(妻木頼黄)

住所:〒231-0001 神奈川県横浜市中区新港1

アクセス:みなとみらい線「馬車道駅」または「日本大通り駅」より徒歩約6分

横浜赤レンガ倉庫

営業時間:【1号館】10:0019:00 【2号館】11:0020:00

     *一部店舗・スペースにより異なる

 

◆『横浜の名建築をめぐる旅』より

西洋やオリエントの意匠を巧みに組み合わせたデザイン

横浜税関

港町である横浜には、町の中の顔のほかに海からみえる顔がある。晴れた日に海から町を眺めると、光を浴びながら建ち並ぶ建物の中に、横浜三塔で知られる、キング、クイーン、ジャックの三つの塔がよくみえる。その三棟の中でこの横浜税関だけは、港に向かって正面を斜めに向けていて、体をやわらかく傾けるようなそのたたずまいは、やはりクイーンの名にふさわしい。

 

DATA

竣工:1934(昭和9)年

設計:大蔵省営繕管財局工務部

住所:〒231-0002 神奈川県横浜市中区海岸通1

アクセス:みなとみらい線「日本大通り駅」より徒歩1分

 

◆『鎌倉の名建築をめぐる旅』より

民藝運動とも縁の深い緑の中の古民家

旧川喜多邸別邸(旧和辻邸)

 昭和初期、柳宗悦や濱田庄司などを中心とした民芸運動が活発化し、急速に姿を消しつつあった伝統的民家の素朴で木太い骨組みや、自然素材を生かした造形を見直す機運が高まった。浜田は益子で古民家を移築して仕事場とし、河井寛次郎は京都で、登り窯のある敷地に自らの住まいを民家調で建設した。こうした民家への熱いまなざしは、茶人・文化人などを中心に広がり、古民家の利活用が流行した。

 和辻哲郎もそのひとりで、1938(昭和13)年、東京練馬の自邸として神奈川県大山の古民家を移築した。和辻によれば、移築した民家は19世紀初のもので、かつて松田から移築されたものであったという。

 

DATA

竣工:19世紀初頭

設計:不詳

住所:〒248-0005 神奈川県鎌倉市雪ノ下2丁目2

アクセス:JR「鎌倉駅」東口より徒歩8分

公開日: 年に2回、春と秋に一般公開あり。詳細は公式HP参照。

 

◆『鎌倉の名建築をめぐる旅』より

お寺の境内にあるユーゲントシュティール風の洋館

石窯ガーデンテラス

 浄妙寺の境内に入り、境内脇の山道を奥に進むと、忽然と赤瓦の木造2階建ての洋館が現れる。なんとも不思議な光景だが、貴族院議員の犬塚勝太郎が1922(大正11)年に建てた住宅だという。震災で多くの建築を失った鎌倉では極めて貴重な建築遺構で、現在、レストランとして多くの人々に親しまれている。

DATA

竣工:1922(大正11)年

設計:不詳

住所:〒248-0003 神奈川県鎌倉市浄明寺3丁目8-50

アクセス:京浜急行バス「浄明寺」より徒歩5分

営業時間:10:0017:00

     月休(祝日の場合は翌日に振替)、年末年始休業あり

 

 

*各建物の情報については変更されている可能性もあります。おでかけの際は事前に最新情報をご確認ください。

『横浜の名建築をめぐる旅』

定価        1,600円+税

著者名菅野裕子、恩田陸

写真 本多康司

ページ数                192

判型        A5判

発行年月日            2021/07/12

ISBN      9784767828909

 

 

『鎌倉の名建築をめぐる旅』

定価        1,800円+税

著者名内田 青蔵、中島 京子

写真 本多康司

ページ数                184

判型        A5判

発行年月日            2023/10/03

ISBN      9784767831770

 

『横浜の名建築をめぐる旅』

菅野裕子(すげの・ゆうこ)

横浜生まれ。横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院特別研究教員。博士(工学)。西洋建築史専攻。一九九三年横浜国立大学大学院修了、二〇〇六〇七年フィレンツェ大学建築学部客員研究員。著書に『建築と音楽』(共著、NTT出版)、『装飾をひもとく:日本橋の建築・再発見』(共著、青幻舎)、『14歳からのケンチク学』(共著、彰国社)

 

恩田 陸(おんだ・りく)

小説家。一九九二年『六番目の小夜子』でデビュー。二〇〇五年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞と本屋大賞、二〇〇六年『ユージニア』で日本推理作家協会賞、二〇〇七年『中庭の出来事』で山本周五郎賞、二〇一七年『蜜蜂と遠雷』で直木三十五賞と二度目の本屋大賞を受賞。近著に『スキマワラシ』『灰の劇場』など。著書多数。

 

『鎌倉の名建築をめぐる旅』

内田青蔵

1953年秋田県生まれ。神奈川大学建築学部特任教授。1975年神奈川大学卒業。1983年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程満期退学。工学博士。専門は日本近代建築史。2004年今和次郎賞、2012年日本生活文化史学会賞、2017年日本建築学会賞受賞。代表的な著書に『日本の近代住宅』(鹿島出版会)、『お屋敷拝見』(河出書房新社)、『同潤会に学べ』(王国社)、『「間取り」で楽しむ住宅読本』(光文社文庫)などがある。

 

中島京子

1964年東京都出身。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木賞を受賞。『かたづの!』で第28 回柴田錬三郎賞、『長いお別れ』で第10回中央公論文芸賞、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞、『やさしい猫』『ムーンライト・イン』で第72 回芸術選奨文部科学大臣賞、『やさしい猫』で第56 回吉川英治文学賞を受賞。その他、著作多数。