美術解剖学者流!あばらと骨盤を使ってパースのついた立体的な胴体をバランスよく描く方法

バランスのとれた胴体を描くのも、キャラ作画の大きな難関のひとつです。
「真正面や真横のアングルなら何とか描けるけど、アオリやフカンになると分からない…」という方も少なくないはず。
パースのついた立体的な胴体をバランスよく描くためには、いったい何が必要なのでしょうか?
美術解剖学の専門家 加藤公太先生と、ご存じ漫画家の畑健二郎先生と一緒に探っていきます。

胴体の作画には、「胸郭」と「骨盤」を単純化したガイドを使う


前回キャラの全身を描いていて、真正面や真横以外のアングル、たとえば少しアオリとかフカン気味のアングルで体を描くのによい練習方法があれば知りたいな、と思いました。
アオリやフカンは、パースが生じるので、バランスを取るのが難しくて……。

加藤
体(胴体)の形を単純化してガイドにするのがよいと思います。
第1回で「頭蓋骨の単純化」をやりましたけど、あれを胴体にも応用する感じです。
胴体を構成している主な骨格は、「胸郭(きょうかく)と「骨盤(こつばん)」なので、これらの立体感とバランスを把握できば、作画の乱れを防げると思います。


詳しく教えてください。

 

胸郭のザックリ解説

加藤
まず「胸郭」と「骨盤」について説明します。
胸郭は、「あばら骨(※)」「背骨(胸椎:きょうつい)」「胸骨」から成る骨格です。
楕円のドーム型で、横に広く前後に薄い形状をしています。
生命維持において特に重要な肺と心臓を保護する役割があります。

※ あばら骨は、12対の肋骨(ろっこつ)と肋軟骨(ろくなんこつ)から成る

上:胸郭の正面と側面図(赤:胸骨、黄:肋骨と肋軟骨、青:胸椎) 下:胸郭を単純化したフレーム構造

 

骨盤のざっくり解説

加藤
骨盤は、一般的にも使われている用語なので、ご存じだとおもいます。
胴体と足の付け根の間にある骨格で、内臓を支えられるような形状をしています。
美術解剖学ではしばしばバケツのような形状に単純化されますね。

上:骨盤の正面と側面(黄:寛骨(かんこつ)、青:仙骨(せんこつ)、赤:尾骨(びこつ)) 下:骨盤を単純化したフレーム構造

 

胴体は単純化すれば箱になる

加藤
「胸郭」と「骨盤」はとても複雑な形状をしていますが、作画のアタリとして使う場合は、立方体(箱)まで単純化することができます。
胴体の立体感をどうとらえていいか分からないときは、この箱のガイドを使うことで、体の奥行きが把握しやすくなり、作画が安定すると思います。

 

キャラ作画では、リアル人体のプロポーションがそのまま使えないもともある


箱のガイドを使って、キャラの体を描いてみましたが、やはりバランスを取るのが難しかったです。
見本で出してもらったガイドに当てはめると胴体がかなり長くなってしまったので、自分なりにバランスを調整する必要がありました。

具体的にいうと、ガイドはプロポーションが5頭身以上で、おそらくこちらのほうがリアルな頭身なのだと思います。
しかし、キャラ絵はもっと頭身を小さくしないと合わせづらいですね。
特にフカン気味のアングルで描くとき、パースに従えば、腰回りはもっと小さくなるはずですが、それだとどうしてもバランスが悪くなってしまうので、私の場合はあえて大きく描いています。

加藤
やはりキャラ絵の場合は、リアル人体のプロポーションをそのまま活用するのは難しいようですね。
箱ガイドの比率を畑先生のイラストに合わせてみましたが、私が最初に描いたガイドのプロポーションと全然違います。


こうしてみると、かなり歪なバランスですね。

 

理想のイラストを参考に、自分なりのバランスを見つける

加藤
胴体の骨格だけを見ると子供のプロポーションに近いですが、首・腕・脚は成人と同じかそれ以上の長さなので、特定の年齢の印象はあまり感じませんでした。

特徴的なのは腰幅です。
今回は男性キャラを描いておられますが、胸郭よりも骨盤の幅が広くなっています。
これは、どちらかというと女性的なバランスなので、リアル男性の胴体に比べて、中性的な印象があります。


マンガ・アニメ的なキャラ表現って、実はいろいろな年齢や性別が混在したバランスになっていたんですね。
おもしろい。

リアルな人体モデルをトレースに近いようなかたちで作画に使おうとしてもなかなか上手くいかないのは、これが原因かもしれませんね。
自分の描きたいキャラの頭身に合ったガイドを自分なりに試行錯誤する必要がありそうです。

 

加藤
そうですね、
ガイドは、描き慣れていない構図でキャラを描くときに、全体のバランスや立体感を確認するのに有効です。
しかし、ガイドに縛られ過ぎると逆に自分のイラストのバランスが崩れることもあるので、注意したいです。


確かに。
私も自分の描きたいキャラと大きくバランスの異なるガイドを「正しい!」と信じ込んで、一生懸命イラストを描いていた頃があります。
その頃の絵はちょっと見ていられないです……

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『ベテラン漫画家 キャラ作画の秘訣を 美術解剖学者に聞く』記事一覧へ

 

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畑健二郎(はた・けんじろう) 
漫画家。福岡県生まれ、兵庫県出身。『ハヤテのごとく!』(小学館)、『それが声優!』(はじめまして。)、『トニカクカワイイ』(小学館)などの人気マンガ作品を数多く執筆している。『トニカクカワイイ』は、週刊少年サンデーにて大人気連載中!
X(旧Twitter)アカウント:畑健二郎@『トニカクカワイイ』連載中!(@hatakenjiro

 

                                                  

加藤 公太(かとう・こうた)
美術解剖学者。イラストレーター。グラフィックデザイナー。東京都生まれ。文化服装学院 服装科卒業。東京藝術大学デザイン科卒業。東京藝術大学大学院美術解剖学研究室修了。X(旧:Twitter)で“伊豆の解剖学者”(@kato_anatomy)として美術解剖学に関する情報を発信している。