歴史—島型対向式からフリーアドレスへ
オフィスの誕生は事務処理業務の誕生と時を同じくします。日本では明治期に、ドイツやイギリスを模範として官庁舎や民間のオフィスビルが建てられました。
日本では長期にわたり、業務の指示・管理が行いやすい島型対向式のレイアウトが採用されてきましたが、バブル経済崩壊を契機に、組織変更に柔軟に対応しやすいレイアウトを採用する企業が増えています。
現在では、従業員のコミュニケーションを促して新たな価値の創造を図るオープンなレイアウトが普及しつつあります。
昭和期(戦後~高度経済成長期)のオフィス
島型対向式レイアウトが浸透

1940~’70 年代、オフィスのレイアウトは依然として島型対向式が主流で、組織変更や人事異動のたにデスクを並べ替えて対応していた。部長や課長といった役職者が座る席を一般の席と区別し、役職に合わせて椅子の大きさや形状を変化させてステータスを示していた
昭和期(バブル経済期)のオフィス
OA 元年。事務作業の効率化に対応

1980年代、オフィスの中にパソコンやプリンター、コピー機、FAXが登場し、OA化が進んだ。加えて、1980代には快適なオフィスを目指す活動が活発になり、オフィスの広さの目安を6㎡/人とするガイドラインが発表された
平成期(バブル経済崩壊~IT化)のオフィス
経費削減と柔軟さを両立したレイアウトに

1991年のバブル経済崩壊後、企業は経費削減や施設の有効活用を図るファシリティマネジメントを導入。従業員が席を自由に選ぶフリーアドレスや、組織変更時にレイアウトを変更しないユニバーサルプランの採用が増えた
平成期~令和期(新型コロナウイルス感染症後)のオフィス
チームで協力して価値を創造する場

1990年代後半から普及したインターネットによりIT化が進み、2010年代には、ABW(Activity Based Working)と呼ばれる、オフィスの内外を問わず働く場所と時間を自由に選択できる働き方が浸透してきた。オフィスは個人の知識知恵をチームで結合して経営価値を生み出す「知的生産の場」「コミュニケーションの場」としてもとらえられるようになった
出所:「建築知識2024年6月号 建物種類ごと歴史図鑑」(PDF書籍あり)
計画—自然とつながり、設備計画も合理的なセンターコア
オフィスの歴史をざっと振り返りました。さて、オフィスビルは主に、自社ビル、賃貸ビル、庁舎に分類されますが、ここでは都心でよく見られる賃貸ビルの間取りに解説します。
オフィスは更新性とレンタブル比(延べ面積に対して、専有面積[収益を生む賃貸可能面積])が占める割合が重要。そのため、執務以外の室を、合理的にコアにまとめて集約することが計画のポイントになります。コアの形式は大きく分けて、片寄せコア、両端コア、センターコアの3 つがあります。

コアに納める機能は、エレベータ、階段、トイレ、給湯室、設備スペース、倉庫や更衣室など。基本的には各フロアで行動が完結できるようにし、設備ルートの合理化や使い勝手から各階同一の位置に計画する。また、コアはビル全体の共用部となることから、セキュリティを考慮して執務室との間に廊下を設ける
とりわけ、都心の賃貸ビルによくみられるセンターコアの賃貸プランを立体図に起こすと下記のようになります。

大スパンの架構で無柱の大空間とすれば、働き方の変化に対応しやすい。執務室内の間仕切壁を天井までの高さにしておけば、天井を剥すことなく位置が変更できる。また、執務室内に基本モジュールを設定し、空調・換気・排煙計画を基本モジュール内で成立させることで、将来の間仕切位置の変更に対応しやすくなる
とりわけ、長時間の利用が想定される執務空間は、大開口によって自然とのつながりが保つことがポイントです。業務効率上合理的なつくりを追求する一方で、従業員の心身の健康のために自然を感じられる工夫も必要になります。
通風・採光など環境への配慮や、従業員の健康に寄与する設えは、企業の姿勢を示す取り組みとしても重視される傾向が強まっています。また、バイオフィリックデザイン(空間に緑や自然音などを取り入れ、イノベーションの創出、生産性の向上などを図るデザイン手法などの取り組みも多くなっています。オフィスの計画でどのように自然を取り込むかは積極的に検討したいものです。
出所:「建築知識2025年2月号 店舗、オフィス、工場から保育園、学校、図書館、研究所まで 建物種類ごとディテール図鑑」(PDF書籍あり)
事例—まちとつながるエコなオフィス
こうした、センターコアに類型化された注目すべきオフィスビルとして「安井建築設計事務所 東京事務所」(東京都千代田区)があります。オフィスは地名に由来して「美土代クリエイティブ特区」と命名。
社員個人がやりたいことに挑戦し、クリエイティビティを存分に発揮できる、新感覚オフィスとなっています。在宅勤務制度を運用し、移転後の執務スペースはフリーアドレスとするなど、柔軟な働き方を推進しています。

センターコア形式でゾーニングされた3階のレイアウト。フリーアドレスを採用しつつ、籠って集中できる席を設けている。ここでは窓際のカウンター席をラックで仕切り、外を感じてリラックスしながら業務に集中できるようにした

オフィスはビルの1 階から3 階に入居する。回遊性のあるオフィスにするため、既存スラブを一部撤去し、3つの吹抜け階段を新設した。街とつながる1階イベントスペースの活発な雰囲気が2階に伝わるように、そして2階・3階のオフィスに一体感が生まれるようにした。また、地下1階の共用ラウンジにも気軽にアクセスできるようになった
出所:「建築知識2025年4月号 ホストクラブからパンダのもり、消防署まで 建物種類ごと間取り図鑑」(PDF書籍あり)

吹抜け階段のある開的な「安井建築設計事務所 東京事務所」。部署間の垣根を越えてコミュニケーションが活化しているほか、2階の一部まは外部の人も自由に出入り可能で、内外に開かれたオフィスの設えとなっている
さらに、本ビルは省エネ改修によりZEB Oriented(延べ面積10,000㎡以上の建築物を対象とし、外皮の高性能化および高効率な省エネ設備に加え、さらなる省エネルギーの実現に向けた措置を講じた建築物)の認証を取得しています。
断熱性能の向上(遮熱フィルム張りや木製サッシの採用)や、高効率空調設備の採用、LED照明の平均照度低減によって、電気代を移転前より約38%も削減。築古(築60年)の大規模ビルのZEB化として稀有な例な例となっています。