
「奥田染工場 布類計画室」の外観。外壁はスギ下見板張りとしつつ、スチールサッシの引き戸は、既存のトタン屋根に合わせて赤錆色としてアクセントを付けた。かつてのものづくりで賑わっていた当時の街を思い起こさせる
シルクスクリーンとは、孔版印刷の⼀種。メッシュ状の版に孔をあけてインクを透過させる技法で、ポスターや工芸布、アート作品などの制作に⽤いられてきました。
特に、八王子市(東京都)は布の産地として有名な場所であり、明治期に現在の葛飾区(東京都)で創業した奥田染工場は、1932年から八王子市でシルクスクリーンを中心とした布の染色を行っていました。
ただし、時は流れ、近年は生産拠点が海外に移転。工場をたたむ業者が多くなっています。
こうしたなか、奥⽥染⼯場の近くでも、区画整理で⼀軒の織⼯場が解体されることになり、シャトル織機[※]2台を譲り受けることになりました。
⼤型の織機を設置する空間づくりを考えるなかで、奥⽥代表の
「現代ではデザインとものづくりの距離が離れすぎている。デザインし、布を織り、染めて製品とし、発表・販売をする。そんな場所がつくりたい」
という熱い思いを軸に、新たなリノベーションの構想が練られました。
設計者として白羽の矢が当たったのが、久米岬氏(久米岬建築設計事務所)。久米氏が富⼠吉田市(山梨県)で行った展⽰・インスタレーション『織り機に集う』(ディレクション:藤枝大裕/写真家・映像作家:山⼝明宏と共催)を奥田氏が見て感動したことがきっかけになったそうです。
建物は⽼朽化が進んでいましたが、増築が繰り返され、ダンジョンのようになった様⼦もまた1つの魅⼒。「古いから新しくしよう」ではなく「古いけれど、なぜかみんなから愛されている場所を⽬指して、新しい展開を模索する」。
そのようなコンセプトをもとに、久⽶⽒と奥⽥代表が対話を重ねたことによって、⼯房に留まらず、より街に開かれた、ギャラリー機能をもつ空間「奥田染工場 布類計画室」が⽣まれることとなりました。
「予算も限られていたので、トラス状の小屋組(キングポストトラス)など既存の空間がもつ古きよき時代の魅力を生かしつつ、街に対して閉じていた建物の外壁の⼀部を解体。そこにH鋼のフレームで補強をしつつ、ギャラリー・ショップの入口として、大型のガラス引き戸を挿入しました」
「この引き戸は間⼝の3分の2が開放し、大きなものの搬入や、内部と外部をつなげたイベントなど、さまざまな⽤途に使えるようになっています」(久米氏)。
シルクスクリーンと織物の記憶を街の人々と次世代に受け継ぎながら。「奥田染工場 布類計画室」は今後、どんな布を身にまとった姿を見せてくれるでしょうか。
※ ヨコ糸を杼(シャトル)と呼ばれる横糸を取り付けたものが左右に往復しながら織り込んでいく装置
間取り 既存空間のよさを生かしつつ、大開⼝を新設
仕上げ 存在する赤錆色をキーカラーとして生かす

シャトル織機のあるスペース。スチールの平行弦トラスや直行する平行弦トラス、水平ブレースは屋根やスチールサッシの色に合わせて赤錆色にしつつ、天井・壁はAEPで明るく塗装した。中央の天窓は屋根材の波板の⼀部を“透明波板”に変更。光が挿し込むようになっており、改修前とは雰囲気が⼀変している
NOTE 「奥田染工場 布類計画室」で採⽤された製品
外部
外壁:杉板下見張り+ウッドロングエコ(防腐塗装)/小川耕太郎∞百合子社
★参考記事:【PR】屋根とフラットに納まる太陽光発電 ―「エコテクノルーフ」—
アルミサッシ:サーモスA/LIXIL
★参考記事:【PR】暮らしがにじむ窓、建築になじむ窓。
大型引き戸:製作(金物:ヨコヅナ、塗装:さび止め+水性塗料/ベンジャミンムーア)
スチール建具:ハセケン
内部
床:既存コンクリート⼀部補修+IP水性フロアークリヤ―U(防塵塗料)/インターナショナルペイント
壁:うま~くヌレール(漆喰)/日本プラスタ―
スイッチ・コンセント:ニューマイルドビー/神保電器
照明:ミツバ電陶製作所ほか
木製建具:若林木工
取材協力=久米岬[くめ・みさき]

1985 年愛知県名古屋市⽣まれ。⼀級建築⼠。ʻ07-ʼ13 トヨタホーム名古屋 設計主任。ʻ13〜ʼ17 年ノアノア空間⼯房 管理建築⼠。ʻ18 東京都調布市に久⽶岬建築設計事務所設⽴。関東に限らず全国での住宅、店舗などの建築設計・監理に加え、展⽰会・イベント・インスタレーションなどの会場構成・プロダクトデザインを⼿がけている
施工(木工事・電気工事)=Trust
【設計者・施工者の皆様へ】エクスナレッジ・オンライン掲載・設計事例大募集!