木造和洋風建築としての内外装
※4 児童福祉施設(保育所や高齢者福祉施設など)・旅館・寄宿舎の建物において、居室とそのほかの共用部分を準耐火構造の間仕切壁で区画する壁のこと。壁は小屋裏まで達せしめなければならない。この建物では、遮音性を高めるため、12.5㎜厚の石膏ボードを2重張りとして壁に厚みをもたせている
AFTER 和洋折衷に感じる“大正浪漫”の精神
倒壊寸前の銀山温泉「本館古勢起屋」は、和と洋の素材が入り乱れて空間を構成する“大正浪漫”の建築として見事に生まれ変わりました。地元産の素材や最新の技術がうまく調和しているのも大きな特徴です。
色の対比で大正浪漫の雰囲気を表現

客室(洋室タイプ)の壁は、調湿・消臭・抗菌・防カビ作用を考慮して、調合 漆喰の左官仕上げとしている。天井は西山杉の小幅板を用いた造作と竿縁天井。壁際には間接照明(コーニス照明)を仕込み、柔らかな光でライトアップ。床は西山杉(30㎜厚)の無垢フローリングを乱尺張り。天井以外の木部を濃色にすることで、“大正浪漫”の雰囲気を醸し出している
既存和室(2 室)は文化財登録の足がかり
赤いじゅうたんと天然石の対比が映える土間ロビー

広々とした玄関ロビーは、和風の表情を醸し出す天然のさび石と赤いじゅうたんのコントラストが映える。じゅうたんは1935 年創業のオリエンタルカーペット(山形県東村山郡山辺町)でオリジナルに製作したもの。上質な羊毛を採用して、糸づくりから染色、織り、仕上げに至るまで唯一無二の技術(緞通)を駆使して製作されている。おもてなしの雰囲気を高めてくれる
張り出しの空間は装飾性を高めたレトロなホワイエ

出壁の空間はホワイエとして活用。既存の木製建具を再利用したほか、天井にはモールディングをあしらった。階段の手摺に装飾性をもたせ、床を赤いじゅうたん敷き(緞通)とし、大正から昭和にかけての文化人が愛した和洋折衷の設えとした

外壁面は建築時(増築時)の雰囲気を忠実に再現。腐食が激しかった部分(出窓・軒天井・下見板張りの外壁)はすべて西山杉を用いて修復。既存建物のデザインを尊重する瀬野氏の姿勢と、大工の確かな技術力が感じられる
銀山の歴史を感じる“白”の大正風呂

銀山温泉の多くの宿では、所有する源泉が温泉街の中心部を流れる銀山川の川底から湧出していたことから、湯船を源泉にできるだけ近い階段を降りた低い場所に設けていた。これにちなんで湯船をあえて昔の造りと同じ様式で再現。当時の源泉は石灰質で源泉自体真っ白だったことを再現して白いタイル張りの大正風呂に
MEMO
西山杉とは、山形県西村山郡大江町・西川町・朝日町の山で産出されるスギ。天然乾燥で生産された製材は、一般的な人工乾燥材とは異なり、乾燥時に細胞が破壊されず、精油が抜けないので肌艶よく、強度も高い。今回の改修に当たっては、約135㎥の製材を調達したという
NOTE 「銀山温泉 本館古勢起屋」で採用された製品
外部
屋根(ガルバリウム鋼板) ダンネツトップ/セキノ興産
外壁(ガルバリウム鋼板) SF-ガルステージシャイン/アイジー工業
断熱材(高性能グラスウール) アクリアウール/旭ファイバーグラス
断熱材(押出法ポリスチレンフォーム断熱材3種b) スタイロエース-Ⅱ/デュポン・スタイロ
透湿防水シート デュポン タイベック ルーフライナー/旭・デュポン フラッシュスパンプロダクツ
内部
じゅうたん 山形緞通/オリエンタルカーペット
調合漆喰 アレスシックイ/関西ペイント
樹脂畳 MIGUSA/積水成型工業
磁器質タイル アルテ モザイコ/ニッタイ工業
遮音防振シート 遮音シート/大建工業
取材協力:瀬野和広[せの・かずひろ]

1957年山形県生まれ。大成建設設計本部勤務の後、瀬野和広+設計アトリエを開設。2009年~東京都市大学都市生活学部非常勤講師を務める。良質な国産材を使用した木造住宅・施設の設計を数多く手がけている。主著に『これからの木造住宅のつくりかた』『現場写真で学ぶ実施図面の描き方』(エクスナレッジ)がある
瀬野和広氏の著書・主な掲載書籍はこちら
これからの木造住宅のつくりかた(建築知識書籍シリーズ)
現場写真で学ぶ実施図面の描き方
設計= 瀬野和広+ 設計アトリエ
施工= 市村工務店
建物写真= 長岡信也
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