小大建築設計事務所の設計思想の根幹をなすのは、その場所(建物)にしかない魅力を最大限に引き出すこと。2024年にオープンした1棟貸し切りの宿「SANU 2nd Home KOSO安曇野」もこうした思想に基づいてリノベーションされた宿になります。
江戸時代の蔵を思わせるような切妻屋根と左官仕上げの外観は、安曇野の建築家・萬羽増雄氏が35年前に設計したギャラリーであり、閉館後は萬羽氏がアトリエとして利用していました。その建物が醸し出す美しさを継承するかたちで設計が進められています。
600㎜角・長さ10mの棟木と小屋梁、垂木、軒桁、野地板があらわしになった小屋裏。とりわけ、棟木の力強い存在感に目が引かれる。棟木の美しさが際立つように、棟木には極力、設備を付けず、夜間は両壁際に仕込んだコーブ照明で、既存建物の面影が残る小屋裏全体をライトアップしているという
建物内に入ると、まず目に留まるのが、力強さを感じる1本の大きな棟木と、建物中央を貫く小屋梁です(樹種はスギ)。棟木は600㎜角・長さ10m。手刻みで加工されたその横架材は、プレカット化が進んだ現在では入手が困難。宿泊者の心を引き付ける要素として、あらわしとしました。ただし、「棟木をどのように光で演出するか」にこだわり、棟木にはなるべく設備を付けていません。
加えて、内外装ともに仕上げ材を修復するとともに、宿泊施設の維持管理を考慮して、〝自然素材〞や〝手仕事〞を感じられる製品も取り入れています。既存建物への敬意や美しい設え、運営への配慮が「SANU 2nd Home KOSO 安曇野」の存在価値を揺るぎないものにしているのです。
棟木の力強さが際立つ小屋裏
左官仕上げの壁・障子・和紙でつくる和の寝室

ベッドルームは珪藻土・障子・和紙など、和の風情に溢れる素材を組み合わせた落ち着のある空間になっている。なかでも、ペンダントライトのシェードは信州に江戸時代から伝わる内山和紙で製作。一方、壁は左官としつつ、床材には“和紙畳”を採用するなど、宿泊施設の維持管理を考慮した素材選びとした
耳付き一枚板が映える洗面台

信州は全国でも有数のカラマツの生産地。「SANU 2nd Home KOSO 安曇野」は、随所にカラマツを用いている。なかでも洗面台では、地元の職人が製作を手がけた耳付き一枚板を使用。安曇野の原風景を、さわやかな洗面室の空間に採り込んだ
小屋組が紡ぐ記憶は旅のしおり

一筆書きのような曲面の壁で空間が緩やかにつながるリビング・ダイニング。ソファやダイニングテーブルもその形に合わせてデザインされている。建物内のどこからも力強い棟木の存在が際立つ小屋組が見え、旅の印象を深める
環境に溶け込む屋外テラス
写真=堀越圭晋
NOTE 「SANU 2nd Home KOSO 安曇野」で採用された製品
床(階段) コルクタイル
床(2階) オークフローリング(特注塗装品)/東京工営
床(リビング・ダイニング) コルクタイル
床(浴室) 防水性コルクタイル(白)
床(ウッドデッキ) あずみの松 古風坂 銀鼠/プレイリーホームズ
床(洗面脱衣室) 防水性コルクタイル
床(リネン室) 既存カーペット
★関連記事:小大建築設計事務所に学ぶ、”和紙畳“で醸し出す和の風情
天井(浴室) AEP(白)
壁(浴室) FEP(白)
壁(寝室) 左官
壁(トイレ) 珪藻土クロス
天井・壁(洗面脱衣室) AEP(白)
耳付き一枚板(洗面化粧台) カラマツ
作業台(キッチン) タモ
天板(キッチン) タモ
側板(キッチン) スギ
ソファ(張地) インフェルノ/シンコール
取材協力:小嶋伸也+小嶋綾香【こじま・しんや+こじま・あやか】

小嶋伸也 1981年神奈川県生まれ。2004年東京理科大学理工学部建築学科卒業。’04 ~’07年中国大連にてフリーランスで活動(加藤諭氏と共同)。’ 08~’15年隈 研吾建築都市設計事務所。’15年小大建築設計事務所設立。’22年東京理 科大学創域理工学部非常勤講師、’24年東京理科大学工学部非常勤講師 小嶋綾香 1986年京都府生まれ。2009年TEXAS A&M University 建築学科卒業。’12 年SCI-ARC(南カリフォルニア建築大学)修了。’13~’15年隈研吾建築都市 設計事務所。’15年小大建築設計事務所設立。’21年ICSカレッジオブアー ツ非常勤講師
小嶋伸也氏+小嶋綾香氏の事例・インタビュー記事が紹介されている書籍はこちら

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