リビング

【縦庭の家】庭と視線コントロールの妙技

旗竿敷地に建つ、延べ面積89.77㎡の小さな2階建て住宅です。外の緑の風景を室内に取り込むことが設計主旨の重要な1つでしたが、敷地に広い庭を設ける余裕はありませんでした。そこで考えられたのが、小さな庭を2層にした“縦庭”です。自然素材を使った室内から見える縦庭やその他の庭の植栽が織りなす奥行きは、心を落ち着かせてくれます。設計者の津留氏が語る“住む時間とともに、豊かに育つ家”を探訪してみましょう。

ダイニング 窓

1階ダイニングから縦庭を見る。腰窓の高さは800㎜から1,700㎜と少し高めに設定し、縦庭の植栽、目隠し壁、アプローチの庭の植栽を幾重にも重ねて、プライバシーを守るレイヤーを構成している

 

「住む時間とともに豊かに育つ住宅であること」――そのために、敷地は狭い旗竿敷地ですが、街にうるおいを与える路地庭、大きな庭の代わりに小さな庭を2層にした縦庭、寝室に面する北側の落ち着いた坪庭が設けられています。

縦庭には、街との距離を調整するための植栽を配した。水盤も置いて小さな生態系がつくられています。

 

配置図

旗竿敷地に建つ「縦庭の家」。通路には路地庭、対角線上に2つの庭(坪庭・縦庭)と、3つの庭が配置されている

断面図

リビング(2階)とダイニング(1階)からは縦庭と露地庭を眺めることができる

縦庭

高木のアオハダ、中木のナツハゼ、低木のブルーベリー、ギンバイカ、ヒュウガミズキ

1階と縦庭をつなぐ窓の位置は少し高めに設定。一方、2階の窓は大きなピクチャーウィンドウとしました。縦庭の前面には2層分の目隠し壁を配置し、内外の視線をコントロールしています。最大限、外部の緑を取り込むと同時に、植栽や目隠し壁によってプライバシーは守られ、自然の心地よさを感じてリラックスできる空間となっています。

リビング ピクチャーウインドウ

2階リビングのピクチャーウィンドウ。造作ベンチに腰掛けて、日向ぼっこできる場所

また、敷地は第一種高度地区の厳しい高さ制限を受けましたが、高さ制限に沿って大きな勾配屋根を掛けて気積を最大限確保。2階は勾配屋根の下に小さな居心地のよい居場所を複数設けました。

昨今、住宅の耐震性能は特に関心が高まっていますが、構造耐力については、構造設計者によりで計算し、性能面でも安心感のある住宅となっています。

「流行を追わず、質素で素朴かつプレーンな空間とすることで、住まい手がいずれ高齢になっても静かで穏やかな日常を送ることができるように設計しました」(津留氏)

 

間取り すべての部屋はスムーズにつながり、ほどよく区切られる

2階平面図

コーナーの3カ所を坪庭や縦庭や吹抜けとして、旗竿敷地に建つ建物ながらも開放感を確保した

1階平面図

ダイニング・キッチンはデスクコーナーの小さな吹抜けを介して2階のリビングと緩やかにつながる。浴室から坪庭を見られるのも特徴の1つ

リビング・ダイニング

1階ダイニング・キッチン全景。小さな空間が窮屈にならないよう、キッチン横のデスクコーナー上部に1畳程度の吹抜けを設けた。吹抜けを介して、2階の窓からの光が降り注ぐ

書斎

2階図書スペース(写真手前)と子ども部屋(写真奥)。2階のリビング・図書スペース・子ども部屋は壁で区切らず、床のレベル差および天井の高さで空間に変化をつけ、シームレスにつなげている

階段

平面中央に配置された階段が、さまざまな居場所をゆるやかに区切る