
「越屋根の家」の外観。大きな軒の出の切妻屋根が建築としての魅力。屋根の懐が薄く、かつ軒先のラインが真一文字に見えるので、紙を折り曲げたような軽やかな印象を受ける。間口が約19mであるのに対して、越屋根までを含めた建物の高さは約6m。建物の高さを極力抑えているので水平性がより強調され、訪ねてきた人を快く招き入れるような設えになっている。背後の雑木林、左手の土蔵との調和も美しい
「越屋根の家」をひと言で表現すると、〝モダンな農家住宅〞という言葉が思い浮かびます。軒とけらばの出が大きい越屋根は、伝統的な農家住宅ならではの様式美。だが一方、屋根仕上げはガルバリウム鋼板の横葺きで、屋根の懐も非常に薄い。現実的な軽やかさがひしひしと伝わってきます。
実はこの家、夏の暑さで知られる埼玉県川越市に建っています。屋根の軽やかさを表現するとともに、一年を通して快適な暮らしを提供するため、断熱・遮熱の仕様を高水準なものとしています。
建物内外の仕上げに木材を多用した点も「越屋根の家」を〝モダンな農家住宅〞たらしめているゆえんとなっています。
「農家らしく国産のスギをたくさん使っています。とりわけ、外壁の一部はスギの大和張り。昔の農家で多用されていた張り方を採用しました。押縁を外せば、傷んだスギの板のみを簡単に取り換えることができます。北欧の古民家でも用いられている伝統的な手法です。下見板・押縁ともにラフ挽きとしました。一方、和の要素が強くなりすぎないよう、海外産の木材や突き板、集成材なども採用し、多様な木材が調和した空間を意識しました」(関本竜太氏)。
その姿勢は、棟木のない小屋組や北欧の家具を採り入れたことにも見て取れます。
ほかにも、LDK廻りの大きな土間や長い横連窓と縁側など、外部に対して開かれた農家住宅の要素を、現代の生活様式に積極的に生かした「越屋根の家」。その佇まいからは、洒脱で洗練された農家の暮らしが想像できます。
断面 越屋根は「高さを抑え、軒の出は大きく」
建物の最高高さは6.48m、下屋の軒高はGL+3.15mであり、建物の重心が低く、大きな越屋根の存在が目近に感じられます。登り梁をあらわしにしたほか、棟木をなくしたことで、切妻屋根の形を室内側からも意識できるようにしています。棟木をなくすことによるスラスト(屋根が水平方向に開くこと)に対しては、タイバーで対応。登り梁をあらわしとしたので、屋根断熱を行いました。
正面側の軒の出は大きく、1.91m。登り梁(成180㎜)が垂木(成120㎜)を支えるシンプルな構成になっており、室内側は垂木間に断熱材を充填しています。越屋根による立上り部分には南北に高窓を設けて、夏の通風を促しました。広間の両側は床が400㎜下がっており、室内化された土間となっています。

室内には多種多様な木材が利用されている。登り梁はスギ、天井の羽目板はベイツガ、妻面の壁はスギの「小幅板風羽目板」(野地木材工業)、床はオーク無垢フローリング。「『小幅板風羽目板』は当事務所で寸法などを設定して製作してもらった特注品です。スギは木目の個性が特に強いのですが、小幅板にすることで突き付けラインを分散でき、より自然な見た目になると考えています」(関本氏)。空間を真一文字に貫くタイバー(スチール)も両側から木材で挟み込んでいる。空間を緩やかに仕切るためにポット入りの観葉植物 を垂らしたり、キャットウォークの機能を付与したりしている

土間の奥にはスギの木塀に囲まれた、大きな中庭が設けられている。子世帯(左)のほうの屋根(切妻屋根)が部分的に高くなっていることが分かる。外壁は、マットで深みのある表現を特徴とする吹付け仕上げ材「マヂックコート 」(フッコ―)のパターンH8K・特注色で仕上げて、建物全体を落ち着きのある雰囲気にまとめている
断熱 高性能の断熱+遮熱で屋根を薄く
「越屋根の家」は登り梁はあらわしで屋根の懐が薄くなっています。しかし、現代的の生活に求められる機能を備えるには、断熱+遮熱の性能を十分に確保する必要があります。そこで採用されたのがポリイソシアヌレートフォーム断熱材「サーマックスRW」(イノアック コーポレーション)。UA値(外皮平均熱貫流率)は0.39W/㎡・Kを実現しています。

「サーマックスRW」を用いて屋根断熱を行っている様子。垂木・母屋間のサイズに合わせた「サーマックスRW」を隙間なく詰めていく。高い断熱性能と遮熱特性をもつ「サーマックスRW」は、軽量で施工性も抜群。「実際に夏場に現場に来てみると、大きな軒による日射遮蔽や室内は越屋根の形状を生かした重力換気に加え、『サーマックスRW』による断熱・遮熱の効果もあり、思った以上に快適でした。建築で働く人に対しての環境改善にも貢献しているな、と実感しています」(関本氏)
参考記事:【PR】屋根断熱が生み出す 美しい断熱住宅の秘密—施工編—
参考記事:【PR】断熱が生み出す美しい断熱住宅の秘密—完成編—

大きく跳ね出した軒と縁側。「棟から軒先までが1本の垂木という納まりで、屋根の懐を抑えたシンプルな構成を実現。屋根の軒断面の薄さがとてもシャープな印象を与え、水平性がより強調される視覚効果が得られています」(関本氏)
屋根 継目のない21m の鋼板横葺き!
「越屋根の家」はガルバリウム鋼板の横葺き屋根。一般的な横葺き屋根とは異なり、継目が1カ所もなく、長さ21mもの長尺を1枚もので葺いています。建物正面から屋根を見上げると、垂直線が一切なく、いくつもの水平線が重なることで重心が低く抑えられ、水平方向に広がる建物の個性が際立っています。
屋根工事は、鋼板屋根の施工を数多く手がけている新井勇司氏(新井建築板金)が担当。現場に成形機を持ち込んで、ロール状のガルバリウム鋼板を1枚1枚、21mの長さにカット。それをこの住宅の関係者が取り付けるというイベントにもなりました。「これまでは最長14.7mでしたが、皆さんの協力で21mという“最長 不倒距離”を実現しました(笑)」(関本氏+新井氏)。

屋根材には「耐摩カラーSGL 耐摩いぶし銀」(日鉄鋼板)を採用。「マグネシウムの防錆効果が付与されたガルバリウム鋼板なので、耐久性が高いだけでなく、他社のいわゆる“ギングロ”と比較しても濃く、深みのある色が特徴です。“ギングロ”は光が反射すると、かなり白っぽく見えがちですが、『耐摩いぶし銀』は建替え前の母屋の瓦や隣に立つ土蔵の瓦のイメージにもよく調和しま す」(関本氏)

「屋根を長尺(目安として10m以上)にする場合、伸縮が問題となるのですが、少し働き幅にゆるみをとっております。ぴったり奥まで押し込むと190㎜の働きになるのですが、ここでは、伸縮を考慮して185㎜としています」(新井氏)
間取り 土間を室内化した吹抜けのある大きなLDK
「越屋根の家」の間取り。ダイニング・キッチンと広間を挟んで親世帯の居室(左)、水廻り・子世帯の居室(右)を配置。キッチン・パントリー、薪ストーブのスペースなどは床の高さが400㎜下がっており、室内化された土間となっています。

広間から土間越しに中庭を見る。中庭の奥には木塀(スギ)が設置されており、背後にあるお墓との緩やかな境界となっている。手前に見えるローテーブルは家具製作。天板(ナラ+シナ積層合板)と脚が着脱可能になっている(製作は藤沢木工所)
TOPICS
リオタデザインと藤沢木工所が共同開発したスツール「muni」
2024年に発売が開始されたオリジナルのスツール。名前は「muni(ムニ)」で、唯一無二が由来となっています。その名の通り、「座面」と「脚」と「布(張り地)」の組み合わせで、スツールのデザインを自由にカスタマイズすることが可能。ご興味のある方は、こちらをご覧ください。[写真=平林克己]

浴室はハーフユニットバス「ハーフバス08 タイプ0 1.25坪サイズ」(TOTO)として内部の天井や壁面を木質化したほか、洗面室の天井や腰壁を羽目板張りとして、水廻りも木の温かみが感じられる空間になっている
NOTE 「越屋根の家」で採用された主な既製品
外部
屋根(ガルバリウム鋼板) 耐摩カラーSGL 耐摩いぶし銀/日鉄鋼板
外壁(吹付け仕上げ材) マヂックコート パターンH8K・特注色/フッコ―
外壁(木材保護塗料) ウッドロングエコ/小川耕太郎∞百合子社
外壁(木材保護塗料) キシラデコール/大阪ガスケミカル
★参考記事:【PR】屋根とフラットに納まる太陽光発電 ―「エコテクノルーフ」—
断熱
屋根(ポリイソシアヌレートフォーム) サーマックスRW/イノアック コーポレーション
外壁(高性能グラスウール)
基礎(押出法ポリスチレンフォーム3種bA) スタイロエース-Ⅱ/デュポン・スタイロ
内部
壁(スギ羽目板) 小幅板風羽目板/野地木材工業
壁(ベイツガ柾目 本実ラフソーン仕上げ・鋸目なし) つくるシリーズ/共栄木材
壁(塗装風壁紙) エコフリース/ナガイ
床(無垢フローリング) 広巾オーク(W189×L1,820×t15 ㎜)/ハレトケ
土間床(磁器質タイル) Quartz QTZ-3060D-9T/平田タイル
取材協力:関本竜太[せきもと・りょうた]

1971年埼玉県生まれ。’94年日本大学理工学部建築学科卒業。’94~99年エーディーネットワーク建築研究所。2000~’01年フィンランドヘルシンキ工科大学(現アールト大学)留学、現地の設計事務所でプロジェクトにかかわる。’02年リオタデザイン設立。主著に『上質に暮らす おもてなし住宅のつくり方』『詳細図解 木造住宅のできるまで』『すごい建築士になる!』(いずれもエクスナレッジ)
関本竜太氏の著書・主な掲載書籍はこちら
上質に暮らす おもてなし住宅のつくり方
詳細図解 木造住宅のできるまで
すごい建築士になる!
建築を整える。Archi Design by Panasonic
施工=堀尾建設
施工写真=平林克己
竣工写真=水谷綾子
【設計者・施工者の皆様へ】エクスナレッジ・オンライン掲載・設計事例大募集!