建築の仕事問題は人材交流で解決する。

「アーキタッグ」は、設計事務所のための新しいプラットフォーム。“仕事の波に応じて、最適な人材や設計事務所と一緒に仕事ができるようになる”“場所の制約からも解放されるので、業務の効率化が図れる”点が評価され、現在5,000 社・40,000 名以上の設計事務所が登録するなど、人材の確保や交流が課題となっている建築業界で注目を集めています。その仕組みや、「アーキタッグ」から派生した「設計転職」「設計事務所M&A」を解説します。

人材活用の流動化を支える

「急に忙しくなり、人手が足りない。だが仕事の量には波があるため、新たにスタッフを雇う余裕はない」―― そんな悩みを抱えている設計者は少なくないでしょう。こうした問題を解決できるのが、2021年11月に誕生したWebマッチングサービス「アーキタッグ」(運営:青山芸術です。

サービス開始以降、利用者数は順調に増加。現在では、約5,000社の設計事務所が登録するほどの規模になっています(登録者数は40,000名以上)。「アーキタッグ」を立ち上げたのは、フリマアプリ「メルカリ」で、新規事業開発の責任者などを担当していた青山芸術の代表・桂竜馬氏です。

 

桂 竜馬[かつら・りょうま]—慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、ドイツ銀行グループ、ゴールドマン・サックス東京支社およびニューヨーク本社にてM&A・ファイナンシングのアドバイザリー業務に従事。その後、メルカリに入社し、創業者直下の会長室にて M&A や戦略立案の担当を経た後、Head of New Business/越境EC事業 事業責任者/プロダクトマネージャーとして、プロダクト開発ならびに新規事業開発の責任者を担当。金融・インターネットサービス開発の職歴と建築系の家系で育った経歴から、2020 年に青山芸術を立ち上げた

 

「会社設立時に、設計者と建築主のマッチングサービス『タイテル』をリリースし、さまざまな設計者との関係性が構築されるなか、特に、アトリエ系の設計事務所から、設計業務にかかわる悩みの相談をいただくようになりました。前職であるIT業界では、プロジェクトごとの人材交流は当たり前に行われているので、需要の増減が顕著な建築業界でこそ、私が前職で培ったノウハウが生かせるのではないか、と考え、『アーキタッグ』を立ち上げるに至りました。おかげさまで現在では、アトリエ系の設計事務所以外にも、慢性的な人材不足に悩む組織設計事務所・ゼネコン・デベロッパーなどにもご登録いただいています。登録は無料で、マッチングが成立した場合、依頼者からパートナー(登録者)に支払われる報酬の一部(10%)を、パートナーの方への報酬支払い時にご利用手数料として自動控除させていただく仕組みです。もちろん一連のプロセスについて、『アーキタッグ』が的確にスクリーニングや仲介をする仕組みなので、依頼者・パートナーともに使いやすい仕組みになっていると考えています」。

 

設計事務所の人材不足を解消する「アーキタッグ」

「アーキタッグ」には登録料や月額料の設定がない。建築設計の仕事をしている人であれば、資格がなくても登録できる。現在、登録者の割合は意匠設計者が94%、構造設計者が14%、設備設計者が8%(職能の重複あり)となっている。報酬の金額は、①依頼者が「この金額で依頼したい」という予算をまず設定し、予算に合うパートナーを運営スタッフが探すパターン、②条件の合うパートナーに見積りを提出してもらうパターン、のいずれか[上] 登録時には、これまでの勤務(設計)実績や、使用可能なソフト(CAD・BIM・パースなど)を記載する。「最近ではBIMを使用する案件が徐々に増えています。従来のCADと並行しながらBIMに移行している最中にいる企業が目立ち、《AutoCADまたはRevitができる人》《VectorworksまたはArchicadが使える人》といった条件指定が多い傾向です。加えて、設備設計の需要は常に高いです」。(桂氏)[下]

 

「アーキタッグ」を利用すれば、仕事の波に応じて、最適な人材や設計事務所と一緒に仕事ができるようになります。加えて、場所の制約からも解放されるので、業務の効率化が図れるでしょう。たとえば、建物の計画地が遠隔である場合、現場監理に足しげく通うのは難しいもの。近年、遠隔でも現場監理が行える方法も発展しているとはいえ、やはり設計者の目でしっかりと確かめたいところ。「アーキタッグ」で現地の設計者とパートナーシップを組めば、実施設計や現場監理のクオリティ、効率が高まるに違いありません。

さらに建築業界には、構造設計者や設備設計者の数が地方で少ないという問題もあります。一方、「アーキタッグ」を利用すれば、首都圏で働く構造設計者や設備設計者への依頼がスムーズに行えるようになるでしょう。

 

求人や事業承継にも進出

「アーキタッグ」の存在感が建築業界で高まるなか、青山芸術は2024年8月、「設計転職」という中途採用の求人サービスを開始しました。一般的な転職支援サービスとは異なり、公開情報だけでなく、必要に応じて「転職候補先の企業・事務所に関する一歩踏み込んだ取引データや生の声」(桂氏)も活用できるのが特徴です。場合によっては、「アーキタッグ」を利用して1つのプロジェクトで実績を構築してから、お互いの相性を確かめて転職を決定することも可能です。フリーランスの立場で仕事を継続したい人へのサポートも行っています。

設計者のキャリアパスを支援する「設計転職」

プロジェクト単位の契約になる「アーキタッグ」から派生した「設計転職」では、正社員(新卒・中途)や契約社員、パート、アルバイトなどの幅広い雇用形態について就職支援を行う。加えて、事務所の開設やフリーランスでの活動を希望する人に対してもサポートを行っている

 

2024年6月にリリースされた、M&A・事業承継の仲介サービス「設計事務所M&A」にも注目。特に、アトリエ系の設計事務所では、所長の高齢化や所員の独立に伴い、後継者探しを含めて事業(屋号)の継続を検討する時期が必ず訪れます。また、「経理や労務管理といったバックオフィスの業務は他者に任せて、設計監理業務に集中したい」というニーズもあるでしょう。これに対して、「設計事務所M&A」では、

「金融や財務のノウハウをベースに、設計力や取引先ネットワークなど、一般的な金融機関やM&A仲介会社では評価が難しい設計事務所ならではの無形資産を適正に評価できる点が特徴」(桂氏)

とのこと。その設計力を必要としている最適な買収元を探すというものです。

 

設計事務所の事業承継を可能にする「設計事務所M&A」

「設計事務所M&A」は完全成功報酬制のサービス。着手金・中間報酬・月額報酬は一切発生しない。成功報酬手数料の算出には、一般的なレーマン方式[*]を採用。ケースにもよるが、最短3カ月ほど、平均 6カ月ほどの期間でM&A が成立するという

 

以上のように、「アーキタッグ」を軸に据えた各サービスには、建築業界が働き方改革を担うポテンシャルがあります。仕事の進め方やあり方について問題意識をもっている設計者は、ぜひ、お試しください。

 

* M&Aの取引金額などに一定の報酬率を乗じる計算方式。成功報酬の金額=報酬基準額(取引金額)×報酬率で算出され、一般的に取引金額(買収金額)が大きくなればなるほど、報酬率は低くなるという特徴がある

 

こちらの記事は「建築知識2024年10月号」に掲載されています。