木造のビルで自在性を確保
川島範久(以下、川島) 2020年に産声を上げた中規模オフィスビル「REVZO」シリーズの根底にあるのは、一貫して〝働く人の創造性をどう高めるか〞というテーマです。そのために重要だと考えてきたのが、光・風・植物・土・木といった〝自然とのつながり〞。自然は常に変化するものですが、移ろいを感じられるそうした環境が、人の創造性を刺激してくれるのです。「REVZO」シリーズでは、その〝自然との接点を都市に持ち込む〞試みを実践しています。
インテリアでは植物や木を仕上げに取り入れてきましたが、「REVZO新橋」では一歩踏み込み、建築主(中央日本土地建物)が山梨県・神奈川県に保有する社有林から得た木材を構造材・仕上げ材として使う提案をいただきました。この決断が、「REVZO」の思想をより深めてくれたと感じています。
髙力雄大(以下、髙力) 竹中工務店は10年以上前から都市木造への挑戦を続けてきました。しかし、賃貸オフィスビルの木造化は、テナント入居工事の際の間仕切変更や設備更新時に、現しの木材が傷ついてしまうおそれがあり、これまで普及が進みませんでした。「REVZO新橋」では、日鉄建材さんとの協働で、CLT(Cross Laminated Timber)と合成デッキを一体化した「KiPLUS DECK(キプラス デッキ)」を開発。CLTの間に900㎜ピッチのスリットを設け、そこに設備配管・配線や間仕切壁の支持をとる構成です。
〝木材を傷つけることなく建物の更新・改修が行える〞という賃貸オフィスビル木造化の最大のハードルを越えられました。

カラマツ(荷重支持部)と多摩産材のスギ(燃えしろ層)で構成された2時間耐火集成材柱と、スリットが設けられたCLT(スギ)のフラットな天井が現しとなった地上10 階建ての中規模オフィスビル「REVZO新橋」の6 階。木に包み込まれ、「常に自然の要素が視野に入る空間」(川島氏)は、無機質感が漂う賃貸オフィスビルとは一線を画す。しかも、「スリットを用いた自由な間仕切変更、設備機器のレイアウト変更が可能」(髙力氏)であり、普遍性・普及性という面でも木造賃貸オフィスビルの象徴的な存在といえる
川島 これまでの「REVZO」シリーズはS造で、柱のない大きなワークプレイスを確保し、2面以上の開口で風が抜ける計画が特徴でした。今回もその〝フレキシビリティ〞を木造で損なわないことが大きな課題。その象徴といえるのがフラットな天井の佇まいです。
髙力 実際にはH形鋼の下フランジにスラブを固定する逆梁架構となっており、梁形が室内に一切出ません。天井高は3,000㎜。開放的な空間になっています。さらに、床吹き空調となっており、CLTのスリットには、合成デッキの山形を利用して、設備配線を通せるので、空調機器や設備配線の見えない、すっきりした木天井が実現できました。
川島 家具配置や働き方が変わっても、常に視界には木の天井が入る。これは「REVZO」がもともと大切にしてきた、〝自然を背景に働く〞というテーマと深くつながりますね。
木造のビルは物語性に溢れる
髙力 耐火集成材「燃エンウッド」には、建築主が山中湖(山梨県)のそばに保有する山林のカラマツ(JAS集成材を製造する齋藤木材工業で加工)を採用しています。カラマツには荷重支持部として十分な強度があります。表面の燃えしろ層には、東京都の補助金要件[※1]も踏まえ、多摩産材のスギを使用しています。竣工から時間が経ち、木の色が変化したことで、色に深みが出ています。
川島 スケール感が非常に自然で、〝木の個性〞がそのまま空間の表情をつくっている。節があるのもむしろよい。構造と意匠が矛盾なく一体化していますね。
髙力 山中湖のカラマツを活用するため、着工の1年以上前から試験的に伐採し、強度の発現率を調査しました。また、山梨県産材認証を受け、〝認証事業者による合法的に調達した木材〞であることも確認しています。一方、平塚(神奈川県)の社有林は自然林に近く、構造材には向かないため、家具への活用を検討しました。
川島 木材利用は環境への配慮だとされますが、実際には、〝どの森で育ち・どのように管理され・どのような性能をもつか(JAS認証の有無)まで含めて検討すべきです。近年は、林業の取り組み自体が〝産地認証〞の対象にもなっており、「REVZO新橋」はその点で非常に丁寧なプロセスを踏んでいることから、建築が森を〝正しく使う〞姿を示せていると思います[※2]。
髙力 内壁の塗装色は木と調和するように、黄色と赤を混ぜたグレーとしました。外装のアルミフレームもステンカラーとし、軒天井の木と調和する色調にしています。
川島 背景となる壁や外装の色が呼応することで、空間全体が〝木に寄り添う建築〞になっていますね。最後に、「REVZO」シリーズでは以前から、地方の職人の手仕事や材料のストーリーを、映像とともに示す試みを行ってきたのですが、今回、構造材に森の木を使うことで、そのストーリーがより深いレベルで働く人に届くのではないか、と考えています。
髙力 現場に入ると分かりますが、木の香りや手触り感があり、パースでは伝わらない身体的な心地よさがあります。〝木の中で働く〞という体験がどんな影響をもたらすのか―設計者として非常に楽しみです。 [談]
動画もご覧ください
川島範久[かわしま・のりひさ]
1982年生まれ。建築家。博士(工学)。川島範久建築設計事務所代表。明治大学准教授。ノルウェー科学技術大学客員教授。2005 年東京大学工学部建築学科卒業。’07 年東京大学大学院修士課程修了。’07~’14 年日建設計。’12年UCバークレー客員研究員。’16年東京大学大学院博士課程修了。東京工業大学助教などを経て、現職。’14 年「NBF 大崎ビル」(旧ソニーシティ大崎)にて日本建築学会賞(作品)など受賞多数
髙力雄大[こうりき・ゆうた]
1996 年生まれ。2019 年千葉大学工学部建築学科卒業。’21 年千葉大学大学院修士課程修了。’21 年~竹中工務店設計部。現在、東京本店 設計部所属
※ 1 本事業は東京都農林水産振興財団の補助金事業「中・大規模建築物の木造木質化支援事業」および「木の街並み創出事業」の対象事業に採択された
※ 2 「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」(通称:クリーンウッド法)に則り、“産地認証”を取得したものなど、118㎥の木材を使用
写真=平林克己
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