キャラ作画に適した人体の比率とは?キャラクターの全身を美しく描く秘訣を徹底解説!

腕が長すぎたり、脚が短すぎたり、バランスの良くキャラクターの全身を描くのはたいへんです。おまけに、いろんな教本に載っている人体の比率を参考に描いてみても「なんかしっくりこないなぁ」と思うことも少なくないはず。今回は「キャラ作画に適した人体の比率」を畑先生と加藤先生と一緒に探っていきます。

顔の比率は「4等分」か「3等分」

加藤:まずは顔の比率(プロポーション)からお話します。
顔の比率は、2種類あります。

1つは「(毛髪の)生え際」「鼻根(目と鼻の付け根)」「鼻下」をガイドラインにして、頭部の高さを4等分する方法。
もう1つは、「耳の上から下」または、「眉から鼻下まで」の長さを基準に、頭部を3等分する方法です。
どちらかやりやすい方法を活用してみてください。

: 私は、耳を基準に、3等分する方法が描きやすかったです。
耳の大きさや形は、リアル人体とキャラのであまり違わないので。

 

キャラ作画は「顎」と「鼻」の調整が大切

:リアル顔とキャラ顔の大きな違いは、顎の大きさですね。
特に女の子の顔を下から描くときに、顎が大きくなり過ぎないように調整する必要があります。
ゴツい男性キャラなら、そのままでも良さそうですが。

あと、鼻の立体感を抑えるのも重要です。
画風にもよりますが、私の場合は、鼻が大きすぎるとカワイく見えないので。
ただし、小さ過ぎてのっぺりした顔にならないように注意したいです。
鼻の描写はキャラ作画の悩みどころですね。

 

全身の理想的な比率は8頭身

加藤:次は、全身の比率を見ていきましょう。
美術では「人体プロポーション」といい、頭の大きさ(高さ)を基準に全身の比を求めます。
有名なのはレオナルド・ダ・ヴィンチの『ウィトルウィウス的人体図』ですね。
この図に正方形のグリッドを描き加えると、ほぼ8頭身で描かれていることがわかります。

この図は、古代ローマのウィトルウィウスが書いた人体の比率をもとに描かれている。大きな正方形と正円だけでなく、その他の細かなガイドにも注目してほしい

加藤:8頭身の基準は、古代ギリシャ時代から現代までずっと使われてきました。
実際の成人のプロポーションの多くは、7頭身くらいなので、古代ギリシャ時代でも最初は7頭身くらいの彫像がつくられていました。
それが時代が下るにつれて8頭身の像が作られるようになり、スラリと見栄えが良いので、8頭身のほうがたくさん作られるようになったのです。

古代ギリシャ時代の7頭身の像(左)と8頭身の像(右)

 

頭身の基準は、子どもから大人まである

加藤:子供から大人への成長過程のプロポーションの違いも見ていきましょう。
新生児から1歳くらいまでは、おおよそ4頭身。
4歳ごろに5頭身。
9歳ごろで6頭身。
16歳ごろで7頭身。
成人で7.5頭身くらいになります。

 

7.5頭身と8等身の違いは足の長さ

加藤:理想的な8等身と、標準的な人体に近い7.5等身を比較すると、両者の主な違いは、膝下(脛)の長さです。

実際の人で8頭身のプロポーションは珍しいが、分割が容易なので2000年以上使われ続けている

 

腕や脚の長さも、頭が基準

加藤:頭身は、各部位の比率にも使えます。
たとえば、「肩からウエスト」と「肩から肘」と「肘から指の付け根」の距離は、おおよそ頭1個分です。
また、「太もも」と「膝下」の長さは、頭1.5~2個分です。
「頭頂から脚の付け根」までは頭4個分で、8頭身になると「股下」の長さも頭4個分になります。
頭身を基準に各部の長さを比較することで、バランスの取れた体形を描写できます。

 

キャラ人体は4歳と9歳の間の子

:実際に「リアル人体」のプロポーションをベースに、キャラクターを描いてみたのですが、そのまま使ってもうまくバランスが取れませんでした。
リアル人体は、各部のパーツがキャラ人体に比べて太すぎるのが一番のネックですね。
あと、膝下(脛)はリアル人体よりもかなり長くしないと、足が短く見えてしまいます。
体の幅はもう少し太くてもよさそうですが、服を着せるとこのくらいの太さがちょうどいいのではないかと。

:このキャラの立ち絵のプロポーションを見てどう思われますか?

 

加藤:確かに、リアル人体のプロポーションとかなり違いますね。
リアル人体のモデルと並べて見るとよく分かります。

畑先生のキャラ人体は、胴体と腕が短く、脛が長くなっているのが特徴的です。
6頭身なのでリアル人体だと9歳くらいですが、胴体の長さは4歳のプロポーションに近いです。
脛の長さは、おおよそ頭2つ分ありますが、リアル人体でこの長さはなかなかありません。

左から、4歳プロポーション、畑氏のキャラのプロポーション、9歳のプロポーション、成人のプロポーション

 

頭が大きいのは表情が見えやすいから?

加藤:頭が大きく、胴体や腕が小さいのは、「カワイイ」という印象を生むだけでなく、漫画のコマや映像のフレームに入れた時にキャラの顔や表情が読み取りやすくて、身振り手振りがはみ出しにくいという効果がありそうですが、いかがでしょうか?

:その側面はあると思います。
同じような話で、キャラの手も大きく描かれることがあります。
特にアクション中心の漫画作品は、その傾向が強い印象ですね。
手を大きく強調したほうが、躍動感を表現しやすいのかもしれません。

 

手足の誇張表現は、ルネサンス美術にも!?

加藤:実は、手足の大きさの誇張は、美術史だとルネサンスごろから一般的に行われています。
手足は、人が注目しやすいポイントなので、実際よりもひと回り大きく認識されます。
そのため、大きめに表現したほうが、バランスよく見えるのだと思います。
オーギュスト・ロダンの『考える人』も、手足が標準的なサイズより大きくつくられているんですよ。

:ほんとだ!これって倍率に目安とかあるんですか?

加藤:古典的な美術作品だと、10~20%くらい大きくなる感じです。

:誇張表現の目安が分かったので、意図的な表現技法として応用できそうです!

加藤:極端なデフォルメやパースの付いたイラストは別として、いわゆる「立ち絵」であれば見た目の印象を操作するテクニックとして使えるかもしれませんね。

:ちなみに、マンガキャラって手足以外にも、首とか足が長くなりやすいんですが、これも似たような現象なんでしょうか?

加藤:美術の世界でも「首・腹・脛」の長さを誇張するのは一般的ですが、これはどちらかと言うと、スラリとした“理想的な体形”を表現するための表現です。

 

ちょっと寄り道、美術解剖学こぼれ話「人類の脛長好きは古代から?」

加藤:人類は、古代から脛の長い表現を好んできました。
たとえば、古代エジプトの壁画では、太ももと比較すると脛から下がかなり長く描かれます。
ちなみに、古代エジプトの場合、プロポーションの基準は、頭部ではなく足首までの高さの正方形です。
なので、マス目がかなり細かくなっています。

プトレマイオス8世の像。紀元前120年ごろ。(引用:Erik Iversen. Canon and Proportions in Egyptian Art. Aris and Phillips Ltd, 1975.)

加藤:古代エジプトの壁画で脛が長かったのは、スラリとして見栄えが良いというだけでなく、人種にも関係があるように思います。
アフリカ系の人は前腕と脛が、ヨーロッパ系やアジア系の人と比べると長い傾向があるので。
ともかく、脛が長い人体像が見栄えするというのは、古代エジプトから現代まで、人間の意識にかなり刷り込まれているのではないかと思います。

右側がアフリカ系の人のプロポーション

頭身はポーズの付いたイラストにも活用できる

加藤:頭の長さは、ポーズがついた姿勢のプロポーションを確認するときも役立ちます。
「肩から肘」と「肘から指の付け根」や、「太もも」と「膝下(脛)」の長さがおおよそ同じなので、その部分の長さが大幅に違っていないかをチェックしながら描くとバランスがとりやすいと思います。
あらゆる部位をチェックできるわけではありませんが、ある程度の作画崩壊を防ぐことができます。

:人体プロポーションの関係性に従ってキャラ絵にポーズをつけてみました。
キャラ絵のプロポーションでも、各部の長さの関係は、ほぼ同じみたいです。
走っているポーズをけっこうバランスよく描くことができました!

加藤:良い感じですね!
一点だけ、右膝のシワの入り方が気になりました。
この場所は、大腿二頭筋という筋肉の腱が通っているので、下向きのシワを入れるほうが自然です。

:おお! こういう細かい部分も指摘してもらえると、とても助かります!

加藤:便利な人体プロポーションですが、ひとつ注意したいのは「長さ」と「高さ」にしか使えないことです。
つまり、頭の幅と肩幅を除いて、人体の「幅」や「太さ」を図る指標にはならないのです。
お腹や腰回り、腕や脚の太さは、個人差が大きいからです。
また、プロポーションの数値はあくまで「目安」です。
厳密な数値にこだわりすぎてもあまり意味はないので、目分量で大丈夫です。
自分なりにアレンジして使っても問題ありません。

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『ベテラン漫画家 キャラ作画の秘訣を 美術解剖学者に聞く』記事一覧へ

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畑健二郎(はた・けんじろう) 
漫画家。福岡県生まれ、兵庫県出身。『ハヤテのごとく!』(小学館)、『それが声優!』(はじめまして。)、『トニカクカワイイ』(小学館)などの人気マンガ作品を数多く執筆している。『トニカクカワイイ』は、週刊少年サンデーにて大人気連載中!
X(旧Twitter)アカウント:畑健二郎@『トニカクカワイイ』連載中!(@hatakenjiro

 

                                                  

加藤 公太(かとう・こうた)
美術解剖学者。イラストレーター。グラフィックデザイナー。東京都生まれ。文化服装学院 服装科卒業。東京藝術大学デザイン科卒業。東京藝術大学大学院美術解剖学研究室修了。X(旧:Twitter)で“伊豆の解剖学者”(@kato_anatomy)として美術解剖学に関する情報を発信している。