仕事は二人三脚で行い、図面はスタッフが描く
(本書プロローグ抜粋)・・・私の事務所の仕事の約9 割は個人の住宅と別荘の設計です。しかも(幸か不幸か‥‥)いわゆるお金持ちから豪邸の設計を依頼されることはなく、ほとんどは市井の庶民の住宅または別荘で、建物の規模も知れていますから、原則としてひとつの仕事を私とスタッフの2人組で手がけるようにしています。クライアントとの最初の「顔合わせ」から始まって、基本設計、実施設計を経て工事の監理をし、めでたく完成に至るまでの一連の設計・監理の仕事を「二人三脚」でやり遂げるのです。その二人三脚方式で、「湖畔の山荘」(工事名:HILL HUT)において私と設計のペアを組んだスタッフは入夏広親で、入夏がこの図面集のすべての図面を描きました。私は入夏の描いた図面に描き込みをしたり、走り描きのスケッチで指示したり、現場でベニヤ板の上に原寸図を描いたりはしましたが、この仕事ではいわゆる図面らしい図面は1 枚も描いていません。
CAD派? 手描き派?
(中略)実は、私の事務所のスタッフのうちの3 人が「CAD派」ではなく、「手描き派」で、未だに鉛筆と平行定規と勾配定規を駆使し、手描きならではの味わいと温もりのある図面を描いています(こういう手描きの人種を建築界の「天然記念物」あるいは「絶滅種」と呼んでもいいかもしれません)‥‥とこう書くと、私がCAD図面より手描き図面のほうに「肩入れしている」と思われそうなので急いで付け加えておきますが、図面は建物をつくるための手段であって目的ではありませんから、最終的にはできあがった建物が素晴らしければ、図面は手で描こうと、CADで描こうと、基本的には方法はどちらでも良いと思っています。
ただし、「でも、ホントはどっちが好き?」と、さらに突っ込まれたら、即座に「手描き図面!」と応えるでしょう。自慢ではありませんが、私自身はもちろんCADは使えませんし、今後も使う気はありません。今でも家具の原寸図面は、平行定規どころかT定規で描いているぐらいですから、当然と言えば当然ですよね。
手描き図面には「個性」が宿る
手描きについてもうひとつ言い添えておきたいのは、私には「モノをつくり出す原点は人間の手であってほしい」という潜在的な願望、少々大げさに言えば「手仕事信仰」のようなものが抜きがたくあることです。先ほど「味わい」と「温もり」と表現しましたが、これにもうひとつ「個性」という言葉も付け加えておきましょう。人の手でつくられたモノには、どんなものであれ、必ずその「味わい」と「温もり」と「個性」が宿るものであり、そのことを私はこよなく愛し、最大限に評価しているのです。
手描きの図面にもそれがあてはまることは、この本の図面に描かれている1 本1 本の線を凝視していただければお分かりいただけると思います。
設計者にとって「図面を描く」こととは
このたび私は、小さな山荘をひとつつくり上げるための設計の過程を、実際に使った図面を通して紹介する目的で図面集を出版することにしました。同時にこの図面集は住宅設計の実務に携わる年若い設計者と、「年若い」とは少々言いにくい年齢でも、人の暮らしと住宅を愛し、日々、真摯に設計に取り組む「住宅建築家」に向けて出版します。また、できればまだ実務の経験がないだけでなく、手描きで図面らしい図面を見たことも、描いたこともない建築学生にも、この図面集を通じて鉛筆と定規という素朴な文房具で図面を描き上げることのたとえようのない充実感と、そのようにして描かれた図面を熟読することの愉悦を伝えたいと思います。
この図面集から、図面を描くことによって設計が前へ前へと進み、建物の輪郭が際立ち、建物にスピリッツが宿り、建物を構成するあらゆる細部に血が通ってゆくさまを感じ取ってもらえたら嬉しいかぎりです。 中村好文
A4版376ページ 4500円+税
目次
第一章 基本設計図
クライアントからの手紙/敷地下見/検討案/プレゼンテーション案/最終案
第二章 実施設計図
工事開始/仕上げ表/配置図/平面図/屋根伏図/立面図/断面図/矩形図/展開図/建具表/基礎図/基礎伏図/土台伏図/桁伏図/小屋見上図/軸組図/電気設備図/給排水・衛生設備図/暖房設備図
第三章 部屋別詳細図
玄関・土間収納平面図/居間平面図/居間断面図/和室平面図/和室断面図/台所・食堂詳細図/浴室・洗面・便所詳細図/寝室詳細図
第四章 枠・建具詳細図
テラス検討図/枠詳細図/建具詳細図
第五章 その他の詳細図
螺旋階段詳細図/内部雑詳細図/外部雑詳細図
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