街で目にする「あの建物」の歴史・変遷を立体イラストで楽しく分かりやすく解説!

建築知識2024年6月号の特集は「建物種類ごと歴史図鑑」です。住宅や寺院、神社、学校、商業施設、劇場、映画館、動物園、水族館、消防施設、刑務所、酒蔵、などなど。気になる「あの建物」の起源から現代までの変遷を、時代ごとに立体イラストで図解します。

チラ見せ! ルーツは「サウナ」⁉
蒸気浴から湯浴へ、日本独自の建築が発展した「銭湯」の変遷

銭湯の源流は奈良前期の「施浴」だったとされています。この時代は蒸気浴を行うのが「風呂」、湯に漬かるのが「湯浴」と区別されていました。蒸気浴や熱気浴を行う「風呂」は、現代でいうサウナのような浴室に入り、蒸気・熱気で身体の垢を浮かび上がらせた後、別室で水または湯で洗い流しました。一方「湯浴」は現代の入浴で、湯に漬かる方式。江戸中期までは蒸気浴が主流でした。江戸後期には蒸気浴が衰退し湯浴が主流になっていきましたが、双方が同時に存在した時期もあります。

①奈良前期
仏教とともに広まった、寺院由来の「施浴」

施浴は、寺院が民衆に浴室を無料開放したのが始まり。寺院は心身を清めることや病気の治療を通して仏教の布教の広がりを狙いました。したがって当初は斎戒沐浴(さいかいもくよく。心身の清め)が意識されました。寺院におけるこの施浴(8世紀ごろ~)が銭湯の原点ともいえます。施浴は近世まで親しまれましたが、町湯の発達に伴い徐々に衰退。18世紀以降には施浴の記録がほとんど見られません。

イラスト:大武千明

②平安末期
町人由来の「町湯」が誕生

平安期の『今昔物語』に町湯の記述があるほか、鎌倉期の『日蓮大聖人御書講義』にも「湯銭」の記載が残っており、京都ではこのころまでには町湯が定着していたと考えられます。町湯とは、寺の境内ではなく町なかに設けて料金を取り、一般庶民に入浴サービスを提供する施設。町湯の入浴スタイルは、江戸中期までは蒸気浴が、それ以降は湯浴が主流でした。

イラスト:大武千明

③江戸期
日本初の「せんとう風呂」

1591年、商人の伊勢与市が江戸銭瓶橋近くに永楽1 銭の入浴料で「せんとう風呂」を開業。珍しがられて客が殺到したといいます。建物は町家のシンプルな形式。この形式が大正中期まで続いたと思われます。

イラスト:大武千明

④江戸期
石榴口の登場、蒸気浴から湯浴へ

戸棚風呂には、戸の開け閉めを頻繁に行うと、湯気が流れ出てしまう欠点がありました。これを改良したのが石榴口。江戸期の銭湯ではこの石榴口が一般的に見られました。開け閉めしていた引戸をなくし、鴨居をぐっと下げて垂れ壁を設け、湯気の流出を防ぎました。

イラスト:大武千明

⑤明治期
改良風呂の登場、石榴口の廃止

銭湯の数は明治期に急増。近代になっても江戸期と外観は大きく変わりませんでしたが、石榴口が廃止され、1877年、改良風呂という新形式が登場しました。この改良風呂を皮切りに、明治期には銭湯が日本独自の入浴文化として花開き、日本人の暮らしに深く浸透した時代となりました。

イラスト:大武千明

⑥大正期
今に通じる銭湯の間取りの典型

改良風呂で確立した入浴方式を基盤に、衛生面や清掃面での工夫が重ねられ、現代では多様な銭湯が見られます。浴室・脱衣室以外にも、フロントやロビーができるなど、銭湯施設の居心地のよさが向上しています。

イラスト:大武千明

設計の新しいアプローチを見つけるために、
そして、日本建築史を学ぶための読み物としても楽しい1冊です!

建築知識20246月号は、約30種類の建物のルーツと変遷を総特集。温故知新という言葉があるように、「昔はどういう姿だったのか」を学ぶことで、新しい角度からのアイデアが生まれることもあります。設計や創作にぜひご活用いただきたい特集ですが、読み物としても楽しい1冊になっています……!

建築知識24/06 建物種類ごと歴史図鑑

定価   1,800円+税
ページ数   142
判型    B
発行年月   2024/05
ISBN    4910034290642